故を通す将は、九変に於いてするも之を利とする者なり、用を知りて兵なす矣。

其八1-3

故將通於九變之利者、知用兵矣。

gù jiāng tōng yú jiŭ biàn zhī lì zhě、zhī yòng bīng yǐ。

解読文

①遮られること無く戦略、戦術を実現する将軍は、九種類の異変が存在していても、その異変を利点として用いる者であり、異変の使い道を理解して戦略、戦術を実行するのである。

②異変の使い道を理解して戦略、戦術を実行する将軍は、苦痛から逃げ出す道理によって、巧みに獲物となる敵部隊を移動させて一所に集めるに至るのである。

③獲物となる敵部隊を移動させて一所に集めるに至る将軍は、巧みに奇正の戦術を実践できる知恵があり、どんどん兵士数を増やす用水路の道理を実行して敵軍を衰えさせるのである。

④どんどん兵士数を増やす用水路の道理を実行して敵軍を衰えさせる将軍が、敵軍を九種類の異変に赴かせて獲物となる敵部隊を出現させる理由は、自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にしたからである。異変の使い道を実践できる知恵があれば、どうして自軍に災いがあるだろうか、いや、災いは生じない。
書き下し文
①故を通す将は、九変に於(お)いてするも之を利とする者なり、用を知りて兵なす矣(なり)。

②用を知りて兵なす者は、通(いた)む故を将(もっ)て、利なりて於(う)を変えしめて九(あつ)めるに之(いた)る矣(なり)。

③於(う)を変えしめて九(あつ)めるに之(いた)る者は、利なりて兵を用いる知あり、通(つう)を将(おこな)いて故(ふ)らしむ矣(なり)。

④通(つう)を将(おこな)いて故(ふ)らしむ者の、九変に之(ゆ)かしめて於(う)あらしむは利(と)けばなり。用の知あれば、兵することある矣(や)。
<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②道理、③④衰える、の意味。
・「将」は①将軍、②~によって、③④する、の意味。
・「通」は①遮られること無く達する、②痛いと感じる、③④滞ることのない道理、の意味。
・「於」は①在る、②③④カラス、の意味。
・「九」は①数の名、②③一所に集める、④数の名、の意味。
・「変」は①異変、②③移動する、④異変、の意味。
・「之」は①代名詞、②③ある地点や事情に達する、④赴く、の意味。
・「利」は①利益あるものとして用いる、②③巧みなさま、④鋭い、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「知」は①②理解する、③④知恵、の意味。
・「用」は①②使い道、③使用する、④使い道、の意味。
・「兵」は①②戦略、戦術、③戦術、④災いする、の意味。
・「矣」は①②③必然的な判断を表す語気、④反語を表す語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)及び“七書孫子”の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「九変」は、其八1-2①「途有所不由」の「所」の“場所”を指す「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」の5つと、其八1-2①「軍有所不擊、城有所不攻、地有所不爭」の「所」で記述された3つの“よろしき状態”、そして其八1-2①「君令有所不行」の「所」で記述された“軍事機関を占有する君主“を合わせた九種類を指すと考察。つまり、「変」は通常とは異なる状態であり、“異変”の意味を採用して「九種類の異変」と解読した。

・「之」は、「変」の「異変」を指示する代名詞と解読。

・「用」の“使い道”は、話の流れより「異変の使い道」と補って解読。④も同様に解読。

<②について>
・「用を知りて兵なす」は、①「用を知りて兵なす」の「異変の使い道を理解して戦略、戦術を実行する」の意味を積み上げていると考察。結果、「異変の使い道を理解して戦略、戦術を実行する」と補って解読。

・「通む故」の直訳は“痛いと感じる道理”となる。これは其十一5-5⑦「羊が苦痛から逃げ出す道理」を指すと考察できる。結果、「苦痛から逃げ出す道理」と解読。

・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、「獲物となる敵部隊」と解読。③④も同様に解読。

・「九」の“一所に集める”の“一所”は、「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」の内、奇策部隊が隠れている場所を指すと考察した上で、そのまま「一所に集める」と解読。

<③について>
・「兵」の“戦術”は、話の流れより、獲物となった敵部隊を攻め取る戦術とわかるため「奇正の戦術」と補って解読。

・「兵を用いる知」は、「兵」を「奇正の戦術」と解釈すれば“奇正の戦術を使用する知恵”となる。この“使用する知恵”は、其一2-6①「知」の「実践できる知恵」と同意と考察。結果、「奇正の戦術を実践できる知恵」と解読。

・「通に将う」の直訳は“滞ることのない道理を行う”となる。この“滞ることのない”事柄は、其四4-4⑤2つ目の「洫」の「耕作地の用水路」と同意と考察すれば、其四4-4⑤「赤い顔料と耕作地にある用水路の水の重さを量らせるに等しく兵士数が減るしかない敵軍とどんどん兵士数が増える自軍を比較させれば敵軍は士気が殺がれると考えるのである」より、「どんどん兵士数を増やす」の意味を指すと考察できる。結果、「どんどん兵士数を増やす用水路の道理を実行する」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「利」の“鋭い”は、其七6-2④「早朝の切れ味の鋭い武器となる士気が激しく旺盛な軍隊の勢いに至らせる」の“切れ味の鋭い武器となる”を指すと考察。結果、「利し」で簡潔に「自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にする」と解読。

・「知」の“知恵”は、③「知」の意味を積み上げており、其一2-6①「知」の「実践できる知恵」と同意と考察。結果、「実践できる知恵」と解読。

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