所の有る途は由ら不れ、所を有つ軍は撃た不れ、所を有つ城は攻め不れ、所を有つ地は争わ不れ、所を有つ君の令は行わ不れ。

其八1-2

途有所不由、軍有所不擊、城有所不攻、地有所不爭、君令有所不行。

tú yoǔ suǒ bù yóu、jūn yoǔ suǒ bù jī、chéng yoǔ suǒ bù gōng、dì yoǔ suǒ bù zhēng、jūn mìng yoǔ suǒ bù xíng。

解読文

①泛地、瞿地、絶地、囲地、死地の有る進路は経由してはならない、よろしき状態を備えた敵軍は攻めてはならない、よろしき状態を備えた城壁に囲まれた敵都市は武力で撃ってはならない、よろしき状態を備えた敵里等は奪い合ってはならない、軍事機関を占有する君主の命令は実行してはならない。

②泛地、瞿地、絶地、囲地、死地の有る進路を経由しないことが、軍隊をよろしき状態で治める方法である。よろしき状態を備えた敵軍は攻めること無く、正しい方法で備えた自軍を配置するのである。よろしき状態を備えた城壁に囲まれた敵都市は武力で撃つこと無く、正しい方法を使って城壁に囲まれた敵都市を手に入れるのである。よろしき状態を備えた敵里等は奪い合うこと無く、ちょうど相応しい立場である貧しい敵里等を占有するのである。軍事機関を占有する君主の命令は実行すること無く、君主に本来あるべき状態を備えさせるのである。

③軍隊をよろしき状態で治める方法を使えば、大いに敵人民を自軍に編制するのである。正しい方法で備えた自軍を配置すれば、大いに容易く敵軍を打ち破るのである。城壁に囲まれた敵都市を手に入れる時は、治めている敵武将を大いに怠惰にさせた状態に至らせることを巧みにこなすのでる。貧しい敵里等を占有する時は、敵里等を豊かにする方法を実行して、人民同士に大いに蓄積した富の優劣を争わせるのである。本来あるべき状態を備えた君主の命令は、兵士達を大いに従事させるのである。

④大いに敵人民を自軍に編制することはよろしき実の状態を備える方法であり、大いに容易く敵軍を打ち破る理由はよろしき実の状態を備えた軍隊が存在するからである。貧しい敵里等が大いに豊かになれば統治できるのであり、城壁を築造することで大いに堅固にしてよろしき実の状態で備えさせるのである。兵士達が大いに従事する時は、中国全土を統一して戦争を無くしたい思いを持っているのである。
書き下し文
①所の有る途(と)は由(よ)ら不(ざ)れ、所を有(たも)つ軍は撃た不(ざ)れ、所を有(たも)つ城は攻め不(ざ)れ、所を有(たも)つ地は争わ不(ざ)れ、所を有(たも)つ君の令は行わ不(ざ)れ。

②由(よ)らずは、所に有(たも)つ途(と)なり。撃つこと不(な)く、所に有(たも)ちて軍するなり。攻めること不(な)く、所なして城を有(たも)つなり。争うこと不(な)く、所なる地を有(たも)つなり。行うこと不(な)く、君をして所を有ら令(し)むなり。

③所に有(たも)つ途(と)なせば、不(おお)いに由(もち)いるなり。所に有(たも)ちて軍すれば、不(おお)いに撃つなり。城を有(たも)つに、不(おお)いに所たらしむこと攻(たく)みとするなり。地を有(たも)つに、所なして不(おお)いに争わしむなり。所有る令は、君をして不(おお)いに行わしむなり。

④不(おお)いに由(もち)いるは所有る途(と)なり、不(おお)いに撃つは所有る軍あればなり。地は不(おお)いに争(へだ)たれば有(たも)つ所(べ)きなり、城(きず)きて不(おお)いに攻(かた)くして所有らしむなり。君の不(おお)いに行うに、令(よ)き有(たも)つ所あるなり。
<語句の注>
・「途」は①道筋、②③④方法、の意味。
・1つ目の「有」は①事物が存在する、②③治める、④備える、の意味。
・1つ目の「所」は①場所、②③よろしき状態、④よろしき状態、虚実の代名詞、の意味。
・1つ目の「不」は①~してはならない、②~しない、③④大いに、の意味。
・「由」は①②経る、③④採用する、の意味。
・「軍」は①軍隊、②③軍隊を配置する、④軍隊、の意味。
・2つ目の「有」は①②③④備える、の意味。
・2つ目の「所」は①よろしき状態、②③正しい方法、④よろしき状態、虚実の代名詞、の意味。
・2つ目の「不」は①~してはならない、②無い、③④大いに、の意味。
・「撃」は①②攻める、③④叩く、の意味。
・「城」は①②③都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、④城壁を築造する、の意味。
・3つ目の「有」は①備える、②③手に入れる、④備える、の意味。
・3つ目の「所」は①よろしき状態、②正しい方法、③よろしき状態、④よろしき状態、虚実の代名詞、の意味。
・3つ目の「不」は①~してはならない、②無い、③④大いに、の意味。
・「攻」は①②武力で相手を撃つ、③巧みにこなす、④堅固なさま、の意味。
・「地」は①②③④其一2-5④「地」、の意味。
・4つ目の「有」は①備える、②③占有する、④統治する、の意味。
・4つ目の「所」は①よろしき状態、②ちょうど相応しい立場、③正しい方法、④できる、の意味。
・4つ目の「不」は①~してはならない、②無い、③④大いに、の意味。
・「争」は①②奪い合う、③先を争う、④差が出る、の意味。
・「君」は①②統治者の通称、③④夫に対する呼称、の意味。
・「令」は①命令、②~させる、③命令、④立派な、の意味。
・5つ目の「有」は①占有する、②③備える、④統治する、の意味。
・5つ目の「所」は①官署や公的機関の事務を取り扱う所、②③本来あるべき状態、④思い、の意味。
・5つ目の「不」は①~してはならない、②無い、③④大いに、の意味。
・「行」は①②実行する、③④従事する、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「塗有所不由、軍有所不擊、城有所不攻、地有所不爭、君命有所不受。」と「途」を「塗」とし、「令」を「命」とし、「行」を「受」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「途」の“道筋”は、敵国に侵略している自軍の進路と考察。結果、「自軍の進路」と解読。

・1つ目の「所」の“場所”は、具体的には其八1-1「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」と解釈できる。結果、「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと解釈。結果、話の流れに合わせて「敵里等」と解読する。②も同様に解読。

・5つ目の「所」の“官署や公的機関の事務を取り扱う所”は、其三4-2①「所」の「軍事機関」と同意と考察。結果、「軍事機関」と解読。

<②について>
・「由」の“経る”は、①「由」で記述された「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地の有る進路は経由してはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地の有る進路を経由する」と解読。

・「撃」の“攻める”は、①「撃」で記述された「よろしき状態を備えた敵軍は攻めてはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「撃つこと不く」で「よろしき状態を備えた敵軍は攻めること無く」と解読。

・「正しい方法で備えた自軍を配置する」の“正しい方法”は、其十一2-1①「失礼ながら聞きます。「敵将軍が広く行き渡った正攻法部隊の大軍を率いて、今にも近くまで来襲しそうである。私は、この敵将軍にどう対処すればよいか」」以降で記述されている。

・「攻」の“武力で相手を撃つ”は、①「攻」で記述された「よろしき状態を備えた城壁に囲まれた敵都市は武力で撃ってはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「攻めること不く」で「よろしき状態を備えた城壁に囲まれた敵都市は武力で撃つこと無く」と解読。

・「正しい方法を使って城壁に囲まれた敵都市を手に入れる」の“正しい方法”は、其十一7-8②「敵里等を奪い取って陣地にする時は、必ず城壁に囲まれた敵都市を陣地で封じなければならないのであり、陣地にした敵里等に城壁を築造して対峙して墜落させるのである」以降で記述されている。

・「争」の“奪い合う”は、①「争」で記述された「よろしき状態を備えた敵里等は奪い合ってはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「争うこと不く」で「よろしき状態を備えた敵里等は奪い合うこと無く」と解読。

・「ちょうど相応しい立場である貧しい敵里等」の“ちょうど相応しい立場”は、其一1-1②「貧しい町、村、里、集落を敵国に服従しない陣地にする」に基づいて“貧しい”と補った。

・「行」の“実行する”は、①「行」で記述された「軍事機関を占有する君主の命令は実行してはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「行うこと不く」で「軍事機関を占有する君主の命令は実行すること無く」と解読。

・「君主として本来あるべき状態を備えさせる」の“本来あるべき状態”は、其三4-2①「君主が軍事機関に赴くことを認めた時、軍事の災いとなる理由には三種類ある」以降で記述されている。

<③について>
・「由」の“採用する”は、其七6-4②2つ目の「以」の“「自軍に編制する」と同意と考察。つまり、攻め取った敵兵等を自軍に編制することであるため、「敵人民を自軍に編制する」と解読。④も同様に解読。

・「撃」の“叩く”は、其五1-4①「段」の“槌(つち)で打つ”と同意と考察。其五1-4①「自分の方に投げられた脆い卵を目にとめて固い木槌で打つに等しく自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破る」の虚実の教えに基づき、「容易く敵軍を打ち破る」と解読。④も同様に解読。

・3つ目の「所」の“よろしき状態”は、城壁に囲まれた敵都市を手に入れやすい状態にすることと解釈できる。そこで十一7-8④「急いで敵里等を陣地にする戦略を実行する時は、敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせなければならないのであり、城壁に囲まれた敵都市も同様に、敵武将を怠惰にさせるのである」に着眼すれば、「治めている敵武将を怠惰にさせた状態」と解読できる。

・「地」は、②「地」の「貧しい敵里等」の意味を積み上げていると考察。結果、「貧しい敵里等」と解読。④も同様に解読。

・「所なして不いに争わしむ」の直訳は“正しい方法を実行して先を争わせる”となる。この正しい方法は貧しい敵里等の人民達が先を争う事柄であり、其十三4-3⑦「大いに国を豊かにする方法を捧げれば、蓄積した富の優劣を人民同士で争うに至る」を指すと考察。結果、「敵里等を豊かにする方法を実行して人民同士に大いに蓄積した富の優劣を争わせる」と解読。

・「所有る令」の直訳は“本来あるべき状態を備えた命令”となる。これは②「君主に本来あるべき状態を備えさせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「本来あるべき状態を備えた君主の命令」と補って解読。

・「君」の“夫に対する呼称”は、「夫」の“成年に達して役務や肉体労働に従事する人”の同意と考察。この人民は正攻法部隊に編制されることを踏まえて、ここでは「兵士達」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・1つ目、2つ目、3つ目の「所」は“よろしき状態”の意味だけでなく、虚実の「虚」又は「実」の代名詞の意味があり、「自国の実、自国の虚、敵国の実、敵国の虚」これら四つのいずれかに該当する。ここでは「よろしき実の状態」と解読。

・「争」の“差が出る”は、③「貧しい敵里等を占有する時は、敵里等を豊かにする方法を実行して、人民同士に大いに蓄積した富の優劣を争わせる」に基づけば、敵里等が貧しい状態から豊かになることと考察。結果、「豊かになる」と解読。

・「令き有つ所」の直訳は“立派な統治する思い”となる。其一2-2④「中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義」を指すと考察。結果、「中国全土を統一して戦争を無くしたい思い」と解読。

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