敢えて問う、適の衆なりて正を以いて、将に来たらんとす。侍は之に若何せん。

其十一2-1

敢問、適衆以正、將來、侍之若何。

gǎn wèn、shì zhòng yǐ zhèng、jiāng laí、shì zhī ruò hé。

解読文

①失礼ながらお聞きます。「敵将軍が広く行き渡った正攻法部隊の大軍を率いて、今にも近くまで来襲しそうである。私は、この敵将軍にどう対処すればよいか」。

②この敵将軍について考察すれば、自国を侵犯する行為は未来を支える正義だと多くの敵人民に考えさせているのであり、素直に従う多くの敵人民を背負って世話しているのである。

③自国が侵犯された時、「どのようにすれば良いか」と尋ねられた将軍は、来襲した敵軍に匹敵する多くの人民によって正攻法部隊の大軍を編制し、奇策部隊の間者を使うのである。

④将軍は、敵軍に回避させる木石の道理を使うのであり、自軍の正攻法部隊を来襲した敵軍に迫らせることを思い切って実行するのである。奇策部隊の間者は、軍隊の勢いを比較して危機と見なして恐れ震えている敵兵達を選択するのであり、その恐れ震えている敵兵達に接近するのである。

⑤その恐れ震えている敵兵達に接近して、生きたまま敵を取得する間者が「あなた達を養うには如何にすればよいか」と大胆に尋ねた時、多くの敵兵達は家族のことを考えて思いを厚くするのである。

⑥家族のことを考えて思いを厚くする多くの敵兵達は、「あなた達の君主に服従すれば、どのような未来がある?」と大胆に生きたまま敵を取得する間者に尋ねるのである。

⑦生きたまま敵を取得する間者は、「自軍の君主に素直に従えば、どんな人にも住居と富と食糧を送り届ける」と堂々と力強く知らせるのである。それによって、多くの敵兵達が満足するのである。

⑧あらゆる事柄について勇ましく非難する敵兵が存在する時は、「租税を免除して住居と富と食糧を送り届ければ、いかがであろうか?」と生きたまま敵を取得する間者は諫言するのである。
書き下し文
①敢えて問う、適の衆なりて正を以(ひき)いて、将(まさ)に来たらんとす。侍(じ)は之に若何(いかん)せん。

②適を問えば、敢(おか)すことは来(らい)を将(たす)ける正と衆に以(おも)わしむなり、若(したが)う之を何(にな)いて侍(やしな)うなり。

③敢(おか)されるに、若何(いかん)せんと問われる将は、来るものに適(あ)たる衆に正を以(な)し、侍(じ)を之(もち)いるなり。

④将は、正を以(もち)いるなり、衆を適に問うこと敢(あ)えてするなり。侍(じ)は何(か)を若(えら)ぶなり、之に来(きた)るなり。

⑤之に来(きた)りて、侍(じ)の将(やしな)うは何若(いかん)せんと敢(あ)えて問うに、衆は正を以(おも)いて適(あつ)くするなり。

⑥正を以(おも)いて適(あつ)くする衆は、之に将(したが)えば、何若(いか)なる来(らい)ありと侍(じ)に敢(あ)えて問うなり。

⑦侍(じ)は、之に若(したが)えば何(いず)れも来(らい)を将(おく)ると正しく敢(かん)なりて問(つ)げるなり。以て、衆は適(たの)しむなり。

⑧衆に敢(かん)なりて問う適あるに、正を以(や)めて来(らい)を将(おく)れば何若(いかん)と之は侍(すす)めるなり。
<語句の注>
・「敢」は①失礼ながら、②③侵犯する、④思い切って行う、⑤⑥大胆に行う、⑦強い、⑧勇ましい、の意味。
・「問」は①聞く、②考察する、③尋ねる、④見舞う、⑤⑥尋ねる、⑦知らせる、⑧責める、の意味。
・「適」は①②敵、③匹敵する、④敵、⑤思いを厚くするさま、⑥思いを厚くするさま、⑦満足する、⑧敵、の意味。
・「衆」は①広い、②③④⑤⑥⑦多くの人々、⑧あらゆる事柄、の意味。
・「以」は①~率いて、②考える、③事を行う、④使用する、⑤⑥考える、⑦それによって、⑧留める、の意味。
・「正」は①其五2-1①「正」、②正義、③其五2-1①「正」、④道理、⑤⑥正妻、嫡男、⑦堂々と、⑧租税、の意味。
・「将」は①今にも~しそうである、②支える、③④将軍、⑤養う、⑥服従する、⑦⑧送り届ける、の意味。
・「来」は①近くに及ぶ、②未来、③④⑤近くに及ぶ、⑥未来、⑦⑧物事の原因・由来、の意味。
・「侍」は①私、②世話する、③④⑤⑥⑦目上の人に仕える人、⑧進言や諫言をする、の意味。
・「之」は①②代名詞、③使う、④彼ら、⑤代名詞、⑥彼、⑦⑧代名詞、の意味。
・「若」は①「若何」~をどうすればよいか、②素直に従う、③「若何」どのようにすれば良いか、④選択する、⑤「何若」如何にすればよいか、⑥「何若」どのような、⑦素直に従う、⑧「何若」いかがであろうか、の意味。
・「何」は①「若何」~をどうすればよいか、②背負う、③「若何」どのようにすれば良いか、④誰、⑤「何若」如何にすればよいか、⑥「何若」どのような、⑦どんな人、⑧「何若」いかがであろうか、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「敢問、敵衆以整,將來、待之若何。」と「適」を「敵」とし、「正」を「整」とし、「侍」を「待」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「衆」の“広い”は、其九4-6①「敵軍が、高さがなく隅々まで横に広がっている」と同意と考察。結果、「広く行き渡った」と解読。

・「正」は、其五2-1①「」と同意と考察。但し、「衆」の「広く行き渡った」の意味を考慮して、「正攻法部隊の大軍」と補って解読した。③も同様に解読。

・「之」は、「適」の「敵将軍」を指示する代名詞と解釈。但し、話の流れに合わせて「この敵将軍」と解読。

<②について>
・「之」は、「衆」の「多くの人民」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・「来るもの」の直訳は“近くに及んだ者”となる。これは①「来」で記述された「敵将軍が広く行き渡った正攻法部隊の大軍を率いて、今にも近くまで来襲しそうである」の意味を積み上げていると考察。結果、「来襲した敵軍」と簡潔に解読。

・「以」の“事を行う”は、「正攻法部隊の大軍」を編制することと考察。結果、「編制する」と解読。

・「侍」の“目上の人に仕える人”は、其十二2-3④「軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである」に基づき、将軍の傍にいる「生きたまま敵を取得する間者」と考察。但し、ここでは奇正の戦術について説く前提があると解釈して「奇策部隊の間者」と解読する。④も同様に解読。

<④について>
・「正」の“道理”は、其十1-13②「敵軍に回避させる木石の道理」を指すと考察。結果、「敵軍に回避させる木石の道理」と解読。

・「衆」の“多くの人々”は、其五1-1①「衆」等同様に「多人数部隊」と考察、さらに其五1-3②「全軍の正攻法部隊は多人数部隊」の記述も踏まえて「自軍の正攻法部隊」と解読した。

・「適」の“敵”は、③「来」の「来襲した敵軍」を指すと考察。結果、「来襲した敵軍」と解読。

・「問」の“見舞う”は、「自軍の正攻法部隊」を「来襲した敵軍」に迫らせることと考察。結果、使役形で「迫らせる」と言い換えて解読。

・「何」の“誰”は、「敵軍に回避させる木石の道理」によって其十1-13②「兵士達の士気を大いに旺盛で切れ味の鋭い武器にして、軍隊の勢いで優劣を争う将軍は、敵軍に回避させる木石の道理をお手本にするのであり、軍隊の勢いを比較して危機と見なして恐れ震えている敵兵達を、敵軍から逃亡させるのである」に基づけば、「軍隊の勢いを比較して危機と見なして恐れ震えている敵兵達」と解読できる。

・「之」の“彼ら”は、「軍隊の勢いを比較して危機と見なして恐れ震えている敵兵達」の敵兵達を指すと考察。結果、「その恐れ震えている敵兵達」と解読。

<⑤について>
・「之」は、④「之」の「その恐れ震えている敵兵達」を指示する代名詞と解読。

・「侍」の“目上の人に仕える人”は、③④では「奇策部隊の間者」としたが以降は間者が主役となる。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。⑥⑦も同様に解読。

・「正」について、奇策部隊の間者から養う方法を訪ねられた敵兵達が思い浮かべる存在であるため、“正妻”と“嫡男”の掛け言葉と解釈。結果、「家族」と簡略化して解読。⑥も同様に解読。

<⑥について>
・「之」の“彼”は、恐れ震えている敵兵達が服従する相手であるため、自国の君主と考察できる。結果、敵兵達の視点から「あなた達の君主」と解読。

<⑦について>
・「之」は、⑥「之」の「あなた達の君主」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「自軍の君主」と解読。

・「来」の“物事の原因・由来”は、⑥「来」で記述された「あなた達の君主に服従すれば、どのような未来がある?」に基づけば、未来を得られる原因を指すと考察できる。そのため、この原因は其十1-3④「恐れ震える敵兵達を導く間者は、高貴な地位を装って、住居と富と食糧が得られると説く」で記述された“住居と富と食糧”と解釈できる。結果、「住居と富と食糧」と解読。⑧も同様に解読。

<⑧について>
・「正を以む」の直訳は“租税を留める”となる。これは租税を免除することと考察。結果、「租税を免除する」と解読。

・「之」は、⑦「侍」の「生きたまま敵を取得する間者」を指示する代名詞と解読。

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