此の六者の凡は、天の地之く災いに非ず、将の過ちなり。

其十2-2

凡此六者、非天地之災、將之過也。

fán cǐ liù zhě feī tiān dì zhī zāi、jiāng zhī guò yĕ。

解読文

①これら六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えにおける要旨は、自然界の状態が変わった自然災害ではなく、将軍の罪である。

②六種類の災いを起こす者を将軍にすることが罪であり、六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えを非難する平凡な将軍は、戦地に至った時、戦術の失敗による不幸が生じるのである。

③このような平凡な将軍は、敵の奇策部隊が出撃する場所と時機を識別できない存在であり、戦術の失敗による不幸があれば、その兵士達をひらすら非難するのである。士気が緩んで軍隊の勢いがなまっている自軍を戦地に送り届けて、敵軍にその兵士達を攻め取らせるのである。

④このような平凡な将軍は、戦術の失敗による不幸を起こした時に自国を裏切って災いを起こす存在であり、君主の悪口を言って立場を変えて自国を去り、他国の君主を訪れるのである。
書き下し文
①此の六者の凡(はん)は、天の地之(ゆ)く災いに非ず、将の過ちなり。

②之を将とするは過ちなり、此の六者を非(そし)る凡なるものは、地に之(いた)るに天の災いあるなり。

③此(か)く凡なるものは六たる者なり、災いあれば之を地(た)だ非(そし)るなり。天たる之を将(おく)りて過(あた)えるなり。

④此(か)く凡なるものは、災いあるに六たる者なり、天を非(そし)りて地は之(ゆ)きて将(ゆ)き、之を過(よぎ)るなり。
<語句の注>
・「凡」は①要旨、②③④傑出せずに普通であるさま、の意味。
・「此」は①②代名詞、③④このような、の意味。
・「六」は①②数の名、③陰の喩え、④六番目という序数、の意味。
・「者」は①②~種、③④助詞「もの」、の意味。
・「非」は①AはBではない、②③非難する、④悪口を言う、の意味。
・「天」は①自然界、②其一2-4①「天」、③昼間、④仰ぎ頼る対象、の意味。
・「地」は①状態、②其一2-5②「地」、③ひたすら、④立場、の意味。
・1つ目の「之」は①変わる、②ある地点や事情に達する、③彼ら、④変わる、の意味。
・「災」は①あらゆる自然の災害、②③④不幸、の意味。
・「将」は①将軍、②将軍にする、③送り届ける、④去る、の意味。
・2つ目の「之」は①助詞「の」、②代名詞、③④彼、の意味。
・「過」は①②罪、③人に物を渡す、④訪れる、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「此」は、其十2-1で記述されている「走」、「弛」、「陥」、「崩」、「乱」、「北」の各災いの型と解釈。結果、「此の六者」で「これら六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教え」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・2つ目の「之」は、①「将」の「将軍」を指示する代名詞と解釈。但し、この将軍は六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」を起こす罪があることを踏まえて、話の流れに合わせて「六種類の災いを起こす者(将軍)」と補って解読。

・「天」は、其一2-4①「天」で記述された「自然の摂理とは、日陰と日なたがあり、寒い日と暑い日があり、時間の流れをつくるのである」を指すと考察。“日陰と日なた”は、其一2-4②「月と太陽」と表現しており、これは「奇策部隊と正攻法部隊」の喩え。“寒い日と暑い日”は、其一2-4③「火災のような正攻法部隊でどんどん攻め込んで敵をおののかす」とあり、それぞれ「火災のように勢いある自軍と恐れ震える敵軍」の喩え。“時間の流れ”は、其一2-4②「時間の流れがつくる季節」とあり、この季節は其五2-4②「四季が規則正しく動けば、植物が消えたように見えても元の状態に戻すだけである」を指す。これは其五2-4③「正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は戦線から離脱させて兵士達を回復させて立て直し、正攻法部隊を構成する各部隊から適切な部隊を正確に判断して戦線に出す」の喩え。つまり、“時間の流れ”とは正攻法部隊を消耗させないための教えであり、其五2-3①「冬が訪れて、さらに春が訪れる要因は、太陽と月が規則正しく動くからである」を踏まえれば正攻法部隊と連動して動く奇策部隊を含めて「奇正の戦術」を指すと解釈できる。このように解釈した上で話の流れを考慮すると“自然の摂理”が悪い方向に働いた文意と考察できるため、「天の災い」の“自然の摂理による不幸”は「戦術の失敗による不幸」と解読。

<③について>
・「六」の“陰の喩え”は、②「六」同様に其七4-2①「奇策部隊の出撃する場所と時機の識別を難しくさせる様子はまるで曇り空から変化していく天気を正確に識別できない様子に等しい」の意味を積み上げていると考察すれば、敵が仕掛けた奇策部隊の出撃する場所と時機の識別ができない将軍を描写したと解釈できる。結果、「六たる者」で「敵の奇策部隊が出撃する場所と時機を識別できない存在」と解読。

・「災」の“不幸”は、②「災」の「戦術の失敗による不幸」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦術の失敗による不幸」と補って解読。④も同様に解読。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、戦術の失敗に関わった兵士達を指すと考察。結果、「その兵士達」と解読。

・「天たる之」の直訳は“昼間となった彼ら”となる。まず、“昼間”は其七6-2④「昼」で記述された「昼間の士気が緩んでなまっている軍隊の勢い」の意味を積み上げていると考察。この考察及び話の流れを踏まえると“彼ら”は、敵軍に攻め取られる自軍の兵士達を指すと解釈できる。結果、「士気が緩んで軍隊の勢いがなまっている自軍」と補って解読。

・「将」の“送り届ける”は、「士気が緩んで軍隊の勢いがなまっている自軍」を戦地に送り届けることと考察。結果、「戦地に送り届ける」と補って解読。

・「過」の“人に物を渡す”について、話の流れより“物”は戦地に送り届けた「士気が緩んで軍隊の勢いがなまっている自軍」と指し、“人”は敵軍を指すとわかる。結果、「敵軍にその兵士達を攻め取らせる」と補って解読。

<④について>
・「六」の“六番目という序数”は、①②「此の六者」の「これら六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教え」の六番目である「北」を指し、其十2-1①「北」の「兵士が自国を裏切る災い「北」が存在する」の意味が積み上げられていると考察できる。結果、其十2-1①「北」の意味から類推して、「六たる者」で「自国を裏切って災いを起こす存在」と解読できる。

・「天」の“仰ぎ頼る対象”は、将軍が仰ぎ頼る存在であるため「君主」とい解読。

・「之を過る」の直訳は“彼を訪れる”となる。戦術の失敗による不幸を起こして自国を裏切った将軍が、自国を去って訪れる相手であるため、“彼”は他国の君主と考察できる(敵対している国の君主とは限らない)。結果、「他国の君主を訪れる」と解読。

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