是なりて故なすに、正は日に与を之らしむなり、其の通ぜ使む毋かれ。

其十一9-3

是故、正與之日、毋通其使。

shì gù、zhèng yǔ zhī rì、wú tōng qí shǐ。

解読文

①正しく戦略、戦術を実行する時、将軍は、約束した時間に同盟を結んだ諸侯を戦地に到達させるのであり、敵将軍に、その考えていた計画を遂行させてはならない。

②敵将軍の考えていた計画を制止しても、約束した時間に同盟を結んだ諸侯が戦地に到達しなければ、使者を往来させられたい。

③使者は、同盟を結んだ諸侯を待つことを予期させること無く、「自軍の正攻法部隊は衰えた状態に至った」と敵将軍に陳述するのである。

④自軍の正攻法部隊が衰えた状態に至った理由を質問された時、使者は、「あなた方の正攻法部隊に対して自軍の境遇が良くならない」と称賛されたい。

⑤敵軍の正攻法部隊を称賛した時に、敵に関する物事について熟知しようとしてはならない。使者は、別の日に赴いて、敵将軍が考えている計画を正しく予期するのである。

⑥敵将軍が考えている計画を正しく予期する時は、以前は敵将軍に親しく付き従っていたが、現在は任務が無い部下に対して、増えることがない敵国での収入とどんどん増える自国での収入を比較させて自国に寝返らせるのである。寝返った部下は、敵将軍が考えている計画について正確な判断をするのである。

⑦敵将軍が考えている計画について正確な判断をすれば、その計画を制止するのである。約束した時間に同盟を結んだ諸侯を、交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」に到達させるのであり、敵将軍にその計画を使わせないのである。

⑧約束した時間になった時、将軍の考えている計画が正しければ、諸侯を含めた味方の正攻法部隊は、敵将軍の勝手にさせること無く、士気が下がるしかない敵軍とどんどん士気が旺盛になる自軍を比較させて敵軍を崩れた状態に至らせるのである。
書き下し文
①是(ぜ)なりて故なすに、正は日に与(くみ)を之(いた)らしむなり、其の通(つう)ぜ使(し)む毋(な)かれ。

②是(こ)の故を正(とど)むも、日に与(くみ)の之(いた)ること毋(な)くんば、其れ使(し)を通ぜしむ。

③使(し)は、之を与(とも)にすること正(あらかじ)めせしむこと毋(な)く、日の故(ふ)るに是(ゆ)くと、其の通ずるなり。

④是(ゆ)く故を正(ただ)されるに、使(し)は、其れ日に之(お)いて通ずること毋(な)しと与(くみ)するなり。

⑤与(くみ)するに、通ぜんとする毋(な)かれ。使(し)は、日に之(ゆ)きて、其の故を是(ぜ)なりて正(あらかじ)めするなり。

⑥正(あらかじ)めするに、日(さき)に之に与(くみ)するも、使(し)の毋(な)き其の通なすなり。故を是(ぜ)するなり。

⑦是(ぜ)すれば、故は正(とど)むなり。日に与(くみ)を、通に之(いた)らしむなり、其の使わしむこと毋(な)きなり。

⑧日に之(いた)るに故の是(ぜ)なれば、与(よ)なる正は其の使わしむこと毋(な)くして通なすなり。
<語句の注>
・「是」は①正しい、②代名詞、③④至る、⑤正しい、⑥⑦正確な判断、⑧正しい、の意味。
・「故」は①②たくらみ、③衰える、④理由、⑤⑥⑦⑧たくらみ、の意味。
・「正」は①ある役職の長、②制止する、③予期する、④質問する、⑤⑥予期する、⑦制止する、⑧其五1-3①「正」、の意味。
・「与」は①②同盟を結んだ者、③待つ、④⑤称賛する、⑥親しく付き従う、⑦同盟を結んだ者、⑧味方であるさま、の意味。
・「之」は①②ある地点や事情に達する、③代名詞、④対して、⑤赴く、⑥代名詞、⑦⑧ある地点や事情に達する、の意味。
・「日」は①②期日、③④太陽、⑤別の日、⑥以前、⑦⑧期日、の意味。
・「毋」は①~してはならない、②③④~しない、⑤~してはならない、⑥存在しない、⑦⑧~しない、の意味。
・「通」は①志を遂げる、②往来する、③陳述する、④地位や境遇が良くなる、⑤物事を熟知する、⑥滞ることのない道理、⑦往来する、交通が開けたさま、⑧滞ることのない道理、の意味。
・「其」は①敵の代名詞、②~されたい、③敵の代名詞、④~されたい、⑤⑥⑦⑧敵の代名詞、の意味。
・「使」は①使役形、②③④⑤使者、⑥使命、⑦用いる、⑧勝手にさせる、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「是故、政舉之日、夷關折符、無通其使。」と「正」を「政」、「與」を「舉」、「毋」を「無」とし、「夷關折符」の四字が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「正」の“ある役職の長”は、話の流れから将軍を指すと考察。結果、「将軍」と解読。

・「日」の“期日”は、其十一9-2⑧「攻め取った敵兵達は全て自軍に統一して、非常に数多くの敵里を目指して行くのであり、その敵里を奪い取って陣地にすれば、自軍の権勢を壮大にするのである」からの流れを踏まえると、其十一5-4⑧「期」で記述された「最高位の将軍は、約束した時間に同盟を結んだ諸侯を戦地に到着させる」の“約束した時間”を指すと考察できる。結果、「約束した時間」と解読。②⑦⑧も同様に解読。

・「与」の“同盟を結んだ者“は、其十一5-4⑤1つ目の「与」で記述された「最高位の将軍は、同盟を結んだ諸侯と戦地で会うことを約束したのであり、そこで将軍の優れた側近をその諸侯に出仕させるのであり、このように災いを誘引する諸侯の問題点を解消するのである」の「同盟を結んだ諸侯」を指すと考察。結果、「同盟を結んだ諸侯」と解読。②⑦も同様に解読。

・「之」の“ある地点や事情に達する”は、其十一5-4⑤「同盟を結んだ諸侯と戦地で会うことを約束」に基づき、「戦地に到達する」と補って解読。②も同様に解読。

・「通」の“志を遂げる”は、否定形で使われることを踏まえると、其十一9-2①「敵将軍の考えていた計画を取り除く」に基づき、敵将軍が考えていた計画を遂行することと考察できる。結果、話の流れに合わせて「その考えていた計画を遂行する」と解読。

<②について>
・「是」は、①「其」の「敵将軍」を指示する代名詞と解読。

・「故」の“たくらみ”は、①「考えていた計画」を指すと考察。結果、「考えていた計画」と解読。

<③について>
・「之」は、②「与」の「同盟を結んだ諸侯」を指示する代名詞と解読。

・「日」の“太陽”は、其五2-3の「日月」の解釈より「自軍の正攻法部隊」と解読。

<④について>
・「是」の“至る”は、③「是」で記述された「自軍の正攻法部隊は衰えた状態に至った」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍の正攻法部隊が衰えた状態に至る」と補って解読。

・「日」の“太陽”は、③「日」同様に正攻法部隊と解釈。但し、ここでは敵軍の正攻法部隊を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「あなた方の正攻法部隊」と解読。

<⑤について>
・「与」の“称賛する”は、④「与」で記述された「「あなた方の正攻法部隊に対して自軍の境遇が良くならない」と称賛されたい」の意味を積み上げていると考察。結果、話の流れに合わせて「敵軍の正攻法部隊を称賛する」と補って解読。

・「通」の“物事を熟知する”は、敵に関して熟知することと考察。結果、「敵に関する物事について熟知する」と補って解読。

・「故」の“たくらみ”は、②「故」の「考えていた計画」を指すと考察。但し、一時的な休戦状態で使者が調査する計画であるため、再戦時に予定している敵将軍の計画と推察できる。結果、「考えている計画」と解読。

<⑥について>
・「正」の“予期する”は、⑤「正」で記述された「敵将軍が考えている計画を正しく予期する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍が考えている計画を正しく予期する」と補って解読。

・「之」は、「其」の「敵将軍」を指示する代名詞と解読。

・「其」の“敵の代名詞”は、ここでは敵将軍の部下等を指すと考察。結果、「部下」と解読。

・「使の毋き其の」は、「其」を「部下」と解釈すれば“使命が存在しない部下”となる。この部下は、以前は敵将軍に親しく付き従っていたことを踏まえると、現在は任務が与えられていないのだと解釈できる。結果、「現在は任務が無い部下」と解読。

・「通」の“滞ることのない道理”は、其四4-4④「赤い顔料と耕作地にある用水路の水の重さを量らせるに等しく、増えることがない敵国での収入とどんどん増える自国での収入を比較させて攻め取った敵部隊を自国に寝返らせて採用する」で記述された“耕作地にある用水路”の道理を指すと考察。結果、「通なす」で「増えることがない敵国での収入とどんどん増える自国での収入を比較させて自国に寝返らせる」と解読。

・「故」の“たくらみ”は、⑤「故」の「敵将軍が考えている計画」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍が考えている計画」と解読。

・「故を是する」は、「故」を「敵将軍が考えている計画」と解釈すれば“敵将軍が考えている計画について正確な判断をする”となる。この主語は話の流れより、自国に寝返らせた敵将軍の部下と解釈できる。結果、「寝返った部下は、敵将軍が考えている計画について正確な判断をする」と補って解読。

<⑦について>
・「是」の“正確な判断”は、⑥「是」で記述された「敵将軍が考えている計画について正確な判断をする」の意味を積み上げていると考察。結果、「是する」で「敵将軍が考えている計画について正確な判断をする」と解読。

・「故」の“たくらみ”は、⑥「故」同様に「敵将軍が考えている計画」と解釈。結果、話の流れに合わせて「その計画」と解読。

・「通」は、其十1-1①「通」で記述された「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「通」で「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」」と解読。

・「其の使わしむこと毋し」の直訳は“敵に使用させない”となる。これは、諸侯を「敵将軍が考えている計画」における戦地の型「通」に布陣させることで、敵将軍にその計画を使わせないことと考察。結果、「敵将軍にその計画を使わせない」と補って解読。

<⑧について>
・「故」の“たくらみ”は、⑦「故」の「敵将軍が考えている計画」の情報を得て調整した、自軍の将軍が考えている計画を指すと考察。結果、「将軍の考えている計画」と解読。

・「正」は、其五1-3①「正」の「正攻法部隊」と同意と考察。結果、「正攻法部隊」と解読。

・「与なる正」は、「正」を「正攻法部隊」と解釈すれば“味方の正攻法部隊”となる。これは自軍と諸侯の兵士達を合わせた全ての正攻法部隊を指すと考察。結果、この文意がわかるように「諸侯を含めた味方の正攻法部隊」と補って解読。

・「通」の“滞ることのない道理”は、其四4-4⑥「赤い顔料と耕作地にある用水路の水の重さを量らせるに等しく士気が下がるしかない敵軍とどんどん士気が旺盛になる自軍を比較させて敵軍を崩れた状態に至らせる」で記述された“耕作地にある用水路”の道理を指すと考察。結果、「通なす」で「士気が下がるしかない敵軍とどんどん士気が旺盛になる自軍を比較させて敵軍を崩れた状態に至らせる」と解読。

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