刑める兵は極まりて之かしむなり、至れば刑を无せしむを於す。

其六5-2

刑兵之極、至於无刑。

xíng bīng zhī jí、zhì yú wú xíng。

解読文

①整え治めた正攻法部隊の勢いを最高限度にして戦地に赴かせるのであり、戦地に行き着けば敵軍に陣形等の型を無視させるのである。

②敵軍に陣形等の型を無視させて獲物となる敵部隊を出現させれば、奇策部隊が隠れている場所に誘導して、急に武力で傷つけて攻め取る奇策部隊を出現させることをお手本にする。

③敵部隊を武力で傷つけて攻め取ることに成功すれば真心のある法規や決まりを使うのであり、となると、鞭打つ処罰は存在しないのである。

④鞭打つ処罰が存在しなければ、攻め取られた元敵兵達を最高に歓喜させるのであり、整え治めた正攻法部隊に編制すれば出来ることの限りを尽くすのである。
書き下し文
①刑(おさ)める兵は極まりて之(ゆ)かしむなり、至れば刑を无(なみ)せしむを於(な)す。

②刑を无(なみ)せしめて於(う)あらしめば、至らしめて極(すみ)やかなりて兵する之あらしむに刑(のっと)る。

③兵すること刑(な)れば極(きょく)を之(もち)いるなり、至って、刑无(な)きを於(な)す。

④刑无(な)ければ於(う)を至たらしむなり、刑(おさ)める兵に之(もち)いれば極めるなり。
<語句の注>
・1つ目の「刑」は①整え治める、②手本にする、③成功する、④整え治める、の意味。
・「兵」は①軍隊、②③傷つける、④軍隊、の意味。
・1つ目の「之」は①赴く、②彼ら、③④使う、の意味。
・「極」は①最高限度になる、②急なさま、③決まり、④出来ることの限りを尽くす、の意味。
・「至」は①行き着く、②来る、③となると、④最高であるさま、の意味。
・「於」は①~である、②カラス、③~である、④カラス、の意味。
・「无」は①②無視する(「無」より)、③④存在しない、の意味。
・2つ目の「刑」は①②鋳型、③④仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「形兵之極、至於无形。」と「刑」を「形」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「刑める兵」の直訳は“整え治める軍隊”となる。これは、其六5-1②「正攻法部隊があり余る兵士達を備えて敵軍の兵士数が多くない戦地に赴くことを覚えれば軍隊の勢いで優劣を争う状態に至る」を実行する正攻法部隊と考察。結果、「整え治めた正攻法部隊」と解読。④も同様に解読。

・「極」の“最高限度になる”は、其十一1-10②「信念や理想のために命を捨てさせれば、兵士達の士気が激しく旺盛になって生き永らえるのが道理」で記述された激しい状態になることと考察。其七6-2③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」に基づけば、兵士達の士気は軍隊の勢いに繋がるため、話の流れに合わせて「(軍隊の)勢いを最高限度にする」と解読。

・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。②も同様に解読。

・2つ目の「刑」の“鋳型”は、其五4-5④「刑」の「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型」と同意と考察。結果、「陣形等の型」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、「獲物となる敵部隊」と解読。

・「至」の“来る”は、「獲物となる敵部隊」を其六5-1③「間者が隠れている場所」に誘導することと考察。この間者は奇策部隊に所属することを踏まえて、使役形で「奇策部隊が隠れている場所に誘導する」と補って解読。

・「兵する之」の直訳は“傷つける彼ら”となる。これは「獲物となる敵部隊」を武力で傷つけて敵兵を攻め取る奇策部隊を指すと考察。結果、「武力で傷つけて攻め取る奇策部隊」と補って解読。

<③について>
・「兵」の“傷つける”は、②「兵」の意味を積み上げていると考察し、「敵部隊を武力で傷つけて攻め取る」と解読。

・「極」の“決まり”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意であり、ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。

・2つ目の「刑」の “仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)”は、其九4-26②「行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである」で記述された「鞭打つ」ことを指すと考察。結果、「鞭打つ処罰」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「於」の“カラス”は、②「於」同様に「獲物の鳥」と考察。但し、話の流れは奇策部隊に攻め取られた後であるため、話の流れに合わせて「攻め取られた元敵兵達」と解読。

・「至」の“最高であるさま”は、自国に鞭打つ処罰が無いことに対して攻め取った敵兵達が喜ぶのだと推察できる。結果、「至たらしむ」で「最高に歓喜させる」と言い換えた。

・1つ目の「之」の“使う”は、「攻め取られた元敵兵達」を「整え治めた正攻法部隊」に加えることと考察し、「編制する」と言い換えた。

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