刑を以せば人皆我を所と知らん、而れども、刑を制に以めば吾が所と知るもの莫し。

其六5-5

人皆知我所以刑、而莫知吾所以制刑。

rén jiē zhī wǒ suǒ yǐ xíng、ér mò zhī wú suǒ yǐ zhì xíng。

解読文

①真心のある法規や決まりを実行すれば、人民全てが自国を居場所だと感じるだろう、しかし、真心のある法規や決まりを形式に留めれば、自分達の居場所だと感じる人民はいない。

②真心のある法規や決まりを実行する自国はよろしき状態となって、公平に思いやりが行き渡って人民に自国を居場所にしたいと思わせるのであり、しかし、真心のある法規や決まりを形式に留める将軍の考えは「人民に知識を持たせてはいけない」である。

③鞭打つ処罰を止めれば、公平に思いやりが行き渡る自国の考えが知られるようになるのであり、しかし、鞭打つ処罰によって正攻法部隊を指揮することができても、兵士達の士気は殺がれていることが知られるようになる。

④公平に思いやりが行き渡る自国の考えが満遍なく知られるようになって他国より人民と下僕が降伏するようになれば成功であり、将軍は陣形等の型によって正攻法部隊を指揮することができ、敵部隊を削ぎ取る奇正の戦術を理解しているのである。
書き下し文
①刑を以(な)せば人皆我を所と知らん、而(しか)れども、刑を制に以(や)めば吾が所と知るもの莫(な)し。

②刑を以(な)す我は所たりて皆(あまね)き人(じん)ありて知(い)えるなり、而(しか)れども、刑を制に以(や)む吾の所は、知らしむ莫(な)かれ、なり。

③刑を以(や)めれば皆(あまね)き人(じん)ある我の所は知(あらわ)れるなり、而(しか)れども、刑を以て吾(ふせ)ぐもの制す所(べ)くするも莫(くれ)たること知(あらわ)れる。

④我の所の皆(あまね)き知(あらわ)れて人より以(およ)べば刑(な)るなり、而(なんじ)は刑を以て吾(ふせ)ぐもの制す所(べ)くし、莫(けず)ること知るなり。
<語句の注>
・「人」は①民衆、②③思いやり、④俗世間、の意味。
・「皆」は①全て、②③④まんべんないさま、の意味。
・1つ目の「知」は①感じる、②病気が治る、③④知られるようになる、の意味。
・「我」は①②③④自国、の意味。
・1つ目の「所」は①居所、②よろしき状態、③④思い、の意味。
・1つ目の「以」は①②事を行う、③終える、④押し及ぶ、の意味。
・1つ目の「刑」は①②規則、③仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)、④成功する、の意味。
・「而」は①②③しかし、④あなた、の意味。
・「莫」は①~する人がいない、②~してはいけない、③日暮れ、④削ぎ取る、の意味。
・2つ目の「知」は①感じる、②知識がある、③知られるようになる、④理解する、の意味。
・「吾」は①我々の、②私、③④防御する、の意味。
・2つ目の「所」は①居所、②思い、③④できる、の意味。
・2つ目の「以」は①②留める、③④~によって、の意味。
・「制」は①②形式、③④指揮する、の意味。
・2つ目の「刑」は①②規則、③仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)、④鋳型、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇制刑」と竹簡孫子に十三字欠落あることがわかる。孫子(講談社)の原文は「人皆知我制形、所以勝者不可知」とするが、十三字欠落箇所を四字で補うため参考としない。一方、新訂孫子(岩波)の原文は「人皆知我所以勝之形、而莫知吾所以制勝之形」である。ここで新訂孫子(岩波)の「制勝之形」が中國哲學書電子化計劃では「制刑」なっていることに着眼すると、二カ所ある「勝之」を除けば文字数が合うと気付く。また、当該箇所における“七書孫子”と新訂孫子(岩波)の原文は一致している。以上より、新訂孫子(岩波)の原文から「勝之」を除き、「形」を「刑」に置き換えて原文とした。結果、四通りの解読文が成立したため、適当に補えたと判断した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目と2つ目の「刑」の“規則”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意と解釈。ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・1つ目の「知」の“病気が治る”は、「真心のある法規や決まり」によって、自国を自分達の居場所だと感じていない人民の考えを改めさせ、自国を居場所にしたいと思わせることと考察。結果、「人民に自国を居場所にしたいと思わせる」と解読。

<③について>
・1つ目と2つ目の「刑」の “仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)”は、其九4-26②「行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである」で記述された「鞭打つ」ことを指すと考察。結果、「鞭打つ処罰」と解読。

・「吾ぐもの」の直訳は“防御する者”となる。防御主体の部隊を指すと考察できるため、「正攻法部隊」と解読。④も同様に解読。

・「莫」の“日暮れ”は、其七6-2②「夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態になる」を指すと考察し、「兵士達の士気は殺がれている」と解読。

<④について>
・「我の所」は、③「我の所」で記述された「公平に思いやりが行き渡る自国の考え」の意味を積み上げていると考察。結果、「公平に思いやりが行き渡る自国の考え」と解読。

・「人」の“俗世間”は、其九6-1⑥「人間として扱われることに憧れる奴隷は、流れてきた真心のある法規や決まりを心に留め、やはり主人である人民にその法規や決まりを伝えるだろう」及び其九6-1⑦「広まった真心のある法規や決まりによって敵国の人民を教え導けば、その人民は奴隷と共に降服してくるのである」に基づけば、文意より自国の領土以外と降服してくる人民と下僕が出現すると解釈できる。結果、「人より以ぶ」で「他国より人民と下僕が降伏するようになる」と解読。

・2つ目の「刑」の“鋳型”は、其五4-5④「刑」の「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型」と同意と考察。結果、「陣形等の型」と解読。

・「莫」の“削ぎ取る”は、陣形等の型を使った正攻法部隊によって、敵軍を削ぎ取ることと考察。これは、其六5-1③「陣形等の型に従って自軍を整え治める将軍は絶体絶命に陥った敵部隊を間者が隠れている場所に誘導した時に奇策部隊を出現させる知恵」で記述された「絶体絶命に陥った敵部隊」を出現させることであり、奇正の戦術を実行することと解釈できる。結果、「莫ること」で「敵部隊を削ぎ取る奇正の戦術」と解読。

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