所を以いて勝てば復る者不し、而れども、刑に応ずるもの窮まること無し。

其六5-6

所以勝者不復、而應刑無窮。

suǒ yǐ zhàn zhě bù fù、ér yīng xíng wú qióng。

解読文

①公平に思いやりが行き渡る自国の考えを採用して元敵兵達の反抗心を抑制すれば敵国に引き返す者はいない、しかし、真心のある法規や決まりに共鳴して他国から降伏してくる人民や下僕が尽き果てることが無い。

②元敵兵達の反抗心を抑制する正しい方法を採用する将軍は大いに人民の年貢等を免除するのであり、将軍は鞭打つ処罰を行うこと無く聞き入れさせる方法を探求するのである。

③大いに人民の年貢等を免除する将軍は、どんどん豊かにさせる政策を実行して自軍を優勢にするのであり、将軍が元敵兵達を加勢させて自軍を整え治めれば進退窮まることが無い。

④自軍を優勢にする将軍は、間者が隠れて出現する場所を作り出して奇正の戦術の実行を大いに繰り返すのであり、正攻法部隊が展開する陣形の型に共鳴するように奇策部隊が出現して尽き果てることが無い。
書き下し文
①所を以(もち)いて勝てば復(かえ)る者不(な)し、而(しか)れども、刑に応(おう)ずるもの窮まること無し。

②勝つ所を以(もち)いる者は不(おお)いに復(ふく)すなり、而(なんじ)は刑すること無く応(こた)えしむこと窮(きわ)めるなり。

③不(おお)いに復(ふく)する者は所を以(な)して勝(まさ)るなり、而(なんじ)は応(おう)ぜしめて刑(おさ)めれば窮まること無し。

④勝(まさ)る者は、所に以(な)すこと不(おお)いに復(ふく)すなり、刑に応(おう)ずる而(ごと)くして窮まること無し。
<語句の注>
・「所」は①思い、②③正しい方法、④場所、の意味。
・「以」は①②採用する、③④事を行う、の意味。
・「勝」は①②抑制する、③④越える、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「不」は①無い、②③④大いに、の意味。
・「復」は①引き返す、②③年貢や夫役を免除する、④同じことを繰り返す、の意味。
・「而」は①しかし、②③あなた、④~ように、の意味。
・「応」は①共鳴する、②聞き入れる、③加勢する、④共鳴する、の意味。
・「刑」は①規則、②罰する、③整え治める、④鋳型、の意味。
・「無」は①②③④(事物の存在を否定する)無い、の意味。
・「窮」は①尽き果てる、②探究する、③進退が窮まったさま、④尽き果てる、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「所以勝者不可知、故其戦勝不復、而應形於無窮。」と「不可知、故其戦勝」が入り、「刑」を「形」とし、「於」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「所」の“思い”は、其六5-5③1つ目の「所」の「公平に思いやりが行き渡る自国の考え」を指すと考察。“公平に思いやりが行き渡る”要因は其六5-5②「真心のある法規や決まりを実行する」ことにあるため、「真心のある法規や決まりを実行すれば、公平に思いやりが行き渡る自国の考え」と解読。

・「勝つ」の“抑制する”は、其六5-4④「真心のある法規や決まりを施行して数多くの役人を使って元敵兵達の反抗心を抑制して気持ちを改めさせて、敵間者は厄介払いして兵士数を増やす」を指すと考察。特に“元敵兵達の反抗心を抑制”が該当すると解釈し、「元敵兵達の反抗心を抑制する」と解読。②も同様に解読。

・「復る者」の直訳は“引き返す者”となる。これは敵国に引き返す元敵兵達を指すと考察。結果、「敵国に引き返す者」と解読。

・「刑」の“規則”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意と解釈。ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。

・「応ずるもの」の直訳は“共鳴する者”となる。これは其六5-5④「公平に思いやりが行き渡る自国の考えが満遍なく知られるようになって他国より人民と下僕が降伏する」で記述された“人民と下僕”を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「共鳴して他国から降伏してくる人民や下僕」と解読。

<②について>
・「刑」の“罰する”の“罰”は、其九4-26②「行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである」で記述された「鞭打つ」ことを指すと考察。結果「鞭打つ処罰を行う」と解読。

<③について>
・「所」の“正しい方法”は、文意より其四4-4⑧「自国に服従させてどんどん豊かさが増えていく政策を実行する自軍の権勢は敵軍を越える」を指すと考察。結果、「どんどん豊かにさせる政策」と解読。

・「勝」の“越える”は、其四4-4⑧「自軍の権勢は敵軍を越える」を指すと考察。結果、「自軍を優勢にする」と簡潔に解読。④も同様に解読。

・「応」の“加勢する”は、②「元敵兵達」を自軍に加勢させることと考察。結果、使役形で「元敵兵達を加勢させる」と解読。

<④について>
・「所」の“場所”は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」と同意と考察。其六5-1②「将軍が、命を取り合う死地になると感じた時は間者が隠れる場所を作り出して奇策部隊を配置させて陣形等の型を使う」に基づき、「間者が隠れて出現する場所を作り出す」と補って解読した。

・「以」の“事を行う”は、「間者が隠れて出現する場所」を使うため奇正の戦術を実行することと考察。話の流れに合わせて「奇正の戦術の実行」と解読。

・「刑」の“鋳型”は、其五4-5④「刑」の「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型」と同意と考察。結果、「陣形等の型」と解読。

・「刑に応ずる而くする」は、「刑」を「陣形等の型」と解釈すれば“陣形等の型に共鳴するようにする”となる。陣形の型を使うのは正攻法部隊であり、共鳴して動くのは奇策部隊である。結果、「正攻法部隊が展開する陣形の型に共鳴するように奇策部隊が出現する」と解読。

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