往く所の毋き者は、窮まる地たるなり。

其十一6-8

毋所往者、窮地也。

wú suǒ wǎng zhě、qióng dì yĕ。

解読文

①逃亡する隙が無い戦地「死地」にいる兵士達は、進退が窮まった状態になるのである。

②進退が窮まった正攻法部隊の兵士達は、逃亡する思いを無くした状態になるのである。

③逃亡する思いを無くした正攻法部隊の兵士達は、本来の性格は悪人であり、戦線にひきつけられるのである。

④戦線にひきつけられる正攻法部隊の兵士達は、戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ道理が働いて、出し尽くすことが無いのである。

⑤ひたすら出し尽くすことが無い正攻法部隊の兵士達は、逃亡しようとする敵兵達を出現させるのである。

⑥戦地「死地」から逃亡しようとする敵兵達は、尽き果てて、よろしき状態を失ったのである。

⑦よろしき状態を失った敵兵達は、奇策部隊が隠れている場所に送り届けて絶体絶命の状態にするのである。

⑧絶体絶命となった敵兵達は、自国で得られる豊かな状態にひきつけられて敵国から離れるのである。
書き下し文
①往く所の毋(な)き者は、窮まる地たるなり。

②窮まる者は、往く所は毋(な)くす地たるなり。

③毋(な)くす者の所は窮(きゅう)なり、地に往(む)かうなり。

④往(む)かう者は、所なして、地(た)だ窮(きわ)まること毋(な)きなり。

⑤地(た)だ窮(きわ)まること毋(な)き者は、往(ゆ)かんとする所あらしむなり。

⑥地より往(ゆ)かんとする者は、窮(きわ)まりて所は毋(な)くすなり。

⑦所毋(な)くす者は、地に往(おく)りて窮(きわ)まらしむなり。

⑧窮(きわ)まる者は、所に往(む)かいて地を毋(な)くすなり。
<語句の注>
・「毋」は①②③存在しない、④⑤~しない、⑥⑦何もない、⑧存在しない、の意味。
・「所」は①時、②思い、③本来あるべき状態、④道理、⑤~する人、⑥⑦⑧よろしき状態、の意味。
・「往」は①②逃亡する、③④ひきつけられる、⑤⑥逃亡する、⑦送り届ける、⑧ひきつけられる、の意味。
・「者」は①②③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「窮」は①②進退がきわまったさま、③悪人、④⑤出し尽くしたさま、⑥尽き果てる、⑦⑧絶体絶命の、の意味。
・「地」は①②状態、③場所、④⑤ひたすら、⑥其一2-5②「地」、⑦其一2-5③「地」、⑧国、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「往く所の毋き者」の直訳は“逃亡する隙の無い者”となる。これは、其十一3-12①「之を往く所無きに投らしむ」の「信念や理想のために涙を流した兵士達が従事する正攻法部隊を逃亡する隙が無い戦地「死地」に直面させる」で記述された戦地「死地」にいる正攻法部隊の兵士達を指すと考察。結果、「逃亡する隙が無い戦地「死地」にいる兵士達」と補って解読。

<②について>
・「窮まる者」の直訳は“進退が窮まった者”となる。これは其十一3-12①「正攻法部隊を逃亡する隙が無い戦地「死地」に直面させる」に基づき、「進退が窮まった正攻法部隊の兵士達」と解読。

<③について>
・「毋」の“存在しない”は、②「毋」で記述された「逃亡する思いを無くす」の意味を積み上げていると考察。結果、「毋くす者」で「逃亡する思いを無くした正攻法部隊の兵士達」と補って解読。

・「所は窮なり」の直訳は“本来あるべき状態は悪人である”となる。これは、其九5-3⑤「この必ず敵軍に打ち勝とうとする兵士達は、もしも、犯罪の経歴を調べれば、災いをなす存在が蔓延しているのである」とあるように正攻法部隊には犯罪歴の兵士が多いことに基づき、其九4-27⑥「徹底的に鍛えられた選り抜きの兵士は周到に行き届いており、敵国の人々を虐げる兵士達を指導して敬虔の心を継承して、純粋で精神力のある性格の兵士にするのである」の教えに従って、その兵士達本来の性格である残虐性を抑えていることを踏まえれば、「本来の性格は悪人である」と解読できる。

・「地に往かう」の直訳は“場所にひきつけられる”となる。これは其十一3-12②「信念や理想のために涙を流した兵士達が従事する正攻法部隊は、戦略、戦術を実行する正しい方法を無視するが、戦線にひきつけられて飛び込むのである」に基づけば、「戦線にひきつけられる」と解読できる。

<④について>
・「往」の“ひきつけられる”は、③「往」で記述された「正攻法部隊の兵士達は、本来の性格は悪人であり、戦線にひきつけられる」の意味を積み上げていると考察。結果、「往かう者」で「戦線にひきつけられる正攻法部隊の兵士達」と解読。

・「所」の“道理”は、其十一3-12⑧「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ道理」を指すと考察。結果、「所なす」で「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ道理が働く」と解読。

<⑤について>
・特に無し。

<⑥について>
・「地」は、其一2-5②「」であり、其十一1-1①「死地」の「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」と考察。結果、冗長にならないように「戦地「死地」」と解読。

・「所は毋くす」の直訳は“よろしき状態を無くす”となる。戦地「死地」でせめぎ合った敵軍がよろしき状態を失うことと考察。結果、「よろしき状態を失う」と言い換えた。⑦も同様に解読。

<⑦について>
・「地」は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」であり、この間者は奇策部隊を率いる者であることを踏まえて、話の流れに合わせて「奇策部隊が隠れている場所」と解読。

<⑧について>
・「所に往かう」の直訳は“よろしき状態にひきつけられる”となる。この“よろしき状態”とは、其十一2-3④「攻め取った敵兵達を思いやりによって大いに住居と富と食糧を満足させる機会を利用する」の“住居と富と食糧”を指すと考察。結果、「自国で得られる豊かな状態にひきつけられる」と包括的に解読。

・「地を毋くす」の直訳は“国に存在しなくなる”となる。これは「絶体絶命となった敵兵達」が、敵国を裏切って自国に引っ越すことと考察。結果、「敵国から離れる」と言い換えた。

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