故なすに、生する間は、期する如くして使う可きなり。

其十二4-6

故生閒可使如期。

gù shēng xián kĕ shǐ rú qī。

解読文

①奇正の戦術を行った時、敵の隙に乗じて生け捕りにする間者は、会うことを約束したように誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させることができるのである。

②会うことを約束したように敵部隊を誘き寄せる時は、衰えたように装ったおとり部隊を作り出して、獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係を利点とするのである。

③獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係を利点にして、その敵部隊の思うようにさせれば油断を作り出すのが道理であり、攻め取る時機が出現するに至るのである。

④攻め取る時機が出現するに至った時、生きたまま敵を取得する間者は、誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させるのであり、その敵部隊を衰えさせて動けなくすれば生け捕りにできるのである。
書き下し文
①故なすに、生する間は、期する如くして使う可きなり。

②期する如くするに、故(ふ)るごとき使いを生みて、間を可とするなり。

③可として、使えば間を生むは故なり、期あるに如(ゆ)くなり。

④期あるに如(ゆ)くに、間は使うなり、故(ふ)らしめば生する可きなり。
<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②衰える、③道理、④衰える、の意味。
・「生」は①生け捕り、②③作り出す、④生け捕り、の意味。
・「間」は①スパイ、②二者の関係、③隙間、④スパイ、の意味。
・「可」は①~できる、②③長所、④~できる、の意味。
・「使」は①働かせる、②使者、③勝手にさせる、④働かせる、の意味。
・「如」は①②~のようにする、③④至る、の意味。
・「期」は①②会うことを約束する、③④機会、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「故」の“たくらみ”は、「生きたまま敵を取得する間者」に関連するため奇正の戦術を指すと考察。結果、「奇正の戦術」と解読。

・「生」の“生け捕り”は、其十二2-4①「生」で記述された「敵の隙に乗じて生け捕りにする」の意味を積み上げていると考察。結果、「生する」で「敵の隙に乗じて生け捕りにする」と補って解読。

・「間」の“スパイ”は、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察した上で「間者」と解読。

・「期する如くして使う」の直訳は“会うことを約束したようにして働かせる”となる。これは其十一4-4⑥「獲物となった敵部隊を奇策部隊の隠れている場所に至らせる理由は、固定された戦車の馬と操縦士がいない場所を奇策部隊に行き着く場所にするからであり、魚を釣るように獲物となった敵部隊を誘き寄せて攻め取るのである」で記述されるような必然性を持って、「生きたまま敵を取得する間者」が率いている奇策部隊を出現させることと考察。結果、「会うことを約束したように誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させる」と解読。

<②について>
・「期する如くする」の直訳は“会うことを約束したようにする”となる。これは①「期する如くして使う」同様に解釈して「会うことを約束したように敵部隊を誘き寄せる」と解読。

・「故るごとき使い」の直訳は“衰えたような使者”となる。これは其五4-6②「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型を使って敵軍から攻撃を受けた時におとり部隊が動き出せば獲物となる敵部隊が出現するのであり、そのおとり部隊が尽き果てていると見なして後から追ってくるのである」の「おとり部隊」を指すと考察。結果、「衰えたように装ったおとり部隊」と解読。

・「間」の“二者の関係”について、この“二者”は「衰えたように装ったおとり部隊」と獲物となった敵部隊であり、獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける“関係”を指すと考察。結果、「獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係」と補って解読。

<③について>
・「可」の“長所”は、②「可」で記述された「獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係を利点とする」の意味を積み上げていると考察。結果、「可とする」で「獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係を利点にする」と補って解読。

・「使」の“勝手にさせる”は、「獲物となった敵部隊」の思うようにさせることと考察。結果、「その敵部隊の思うようにさせる」と補って解読。

・「間を生む」の直訳は“隙間を作り出す”となる。この“隙間”は、油断の意味と解釈すれば「油断を作り出す」と解読できる。

・「期」の“機会”は、話の流れより其五3-2①「節」の「攻め取る節目と時機」の内、「時機」を指すと考察。結果、「攻め取る時機」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「間」の“スパイ”は、①「間」同様に其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、ここでは「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「使」の“働かせる”は、①「使」で記述された「会うことを約束したように誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させる」と補って解読。

・「故」の“衰える”は、奇策部隊によって誘き寄せた敵部隊が衰えることと考察。但し、其十一8-4⑥「奇策部隊が隠れる場所で無視されていた奇策部隊は、芋づる式に次々と出現した後、落とし穴で硬直している敵部隊に安否を尋ねるのであり、ひたすら動きが無ければ据え置いて、その後に生け捕りにするのである」及び其十一8-4⑦「奇策部隊の兵士達が、落とし穴で硬直している敵部隊を観察して、後に、火がついたように怒り出してひたすら逃走しようとするならば、逃走しようとする敵兵達を突き刺して芋畑の落とし穴から動けないようにして、その後に生け捕りにするのである」に基づけば、敵部隊を傷つけて動けなくすることが要点とわかるため、使役形で「その敵部隊を衰えさせて動けなくする」と補って解読。

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