亡される地を芋に之いて、然して而と后は存つなり、之の陥るに地は死ぬも、然る后に生まれるなり。

其十一8-4

芋之亡地然而后存、陷之死地然后生。

yù zhī wáng dì rán ér hòu cún、xiàn zhī sǐ dì rán hòu sheng。

解読文

①敵人民が使っていない場所を開墾して芋を植える、そうして将軍と諸侯は軍隊を保ち続けるのであり、敵軍が突入した時は開墾した場所の草木は枯れるが、その後に草木は誕生するのである。

②開墾した場所に兵士達を住居させて戦地「死地」のことを忘れさせて、そうして将軍と諸侯は兵士達を労わるのであり、この兵士達に命を投げ出す覚悟を持たせて戦地「死地」に突入させて、そうしてやっと生存するのである。

③命を投げ出す覚悟を持たせた兵士達は、戦地で住居することを忘れた後、火災のように正攻法部隊でどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくため生き永らえるのであり、敵部隊を窮地に追い込んで奇策部隊が隠れる場所で硬直させて、その後に生け捕りにするのである。

④火災のように正攻法部隊でどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していった後、敵部隊は芋畑から逃走して生き永らえようとするのであり、その芋畑に落とし穴を掘って奇策部隊は消えるのであり、そして後に出現するのである。

⑤従って、敵部隊は芋畑から逃走すると心から思った後、芋畑の落とし穴に沈んで硬直するのであり、奇策部隊は、そこで初めて出現するのである。

⑥そして、奇策部隊が隠れる場所で無視されていた奇策部隊は、芋づる式に次々と出現した後、落とし穴で硬直している敵部隊に安否を尋ねるのであり、ひたすら動きが無ければ据え置いて、その後に生け捕りにするのである。

⑦しかし、奇策部隊の兵士達が、落とし穴で硬直している敵部隊を観察して、後に、火がついたように怒り出してひたすら逃走しようとするならば、逃走しようとする敵兵達を突き刺して芋畑の落とし穴から動けないようにして、その後に生け捕りにするのである。

⑧生け捕りにした敵兵達は、火がついたように怒っている状態が消えれば、自国の君主に寝返らせるのである。戦死した兵士達を埋葬して種芋となり、戦地「死地」となった開墾地が花や果物の彩りが豊かになって、自国及び他国のあらゆる人間が子孫を増やして定住することを、君主と将軍は心に覚えておくのである。
書き下し文
①亡(なみ)される地を芋に之(もち)いて、然して而(なんじ)と后は存(たも)つなり、之の陥るに地は死ぬも、然(しか)る后(のち)に生まれるなり。

②地に之を芋(す)ましめて亡(わす)れしめて、然して而(なんじ)と后は存(と)うなり、之を死たらしめて地に陥(おちい)らしめて、然(しか)る后(のち)に生きるなり。

③之は、地に芋(す)むこと亡(わす)れる后(のち)、然(も)える而(ごと)くして存するなり、之を陥(おとしい)れて地に死たらしめて、然(しか)る后(のち)に生(せい)するなり。

④然(も)える而(ごと)くする后(のち)、之は芋の地に亡(のが)れて存せんとするなり、地に陥(かん)あらしめて之は死ぬなり、然(しか)して后(のち)に生ずるなり。

⑤然(しか)り而(しこう)して、之は芋の地より亡(のが)れると存(おも)う后(のち)、地に陥(おちい)りて死たるなり、之は然(しか)る后(のち)に生ずるなり。

⑥然(しか)して、地に亡(なみ)される之は、芋の而(ごと)くありて后(のち)、之に存(と)うなり、地(た)だ死なれば陥(お)きて、然(しか)る后(のち)に生(せい)するなり。

⑦而(しか)れども、芋の之を存(み)て、后(のち)に然(も)えて地(た)だ亡(のが)れんとすれば、之を陥(とお)して地に死たらしむなり、然(しか)る后(のち)に生(せい)するなり。

⑧生は、然(も)える地の死せば、后を之(ゆ)かしむなり。亡(し)ぬ之は陥(おちい)りて芋にして、地に然(も)えること、后と而(なんじ)は存するなり。
<語句の注>
・「芋」は①芋類の総称、②③住居する、④⑤⑥⑦⑧芋類の総称、の意味。
・1つ目の「之」は①使う、②彼ら、③④⑤⑥⑦代名詞、⑧彼ら、の意味。
・「亡」は①無視する、②③記憶からなくなる、④⑤逃走する、⑥無視する、⑦逃走する、⑧死去する、の意味。
・1つ目の「地」は①②其一2-5①「地」、③其一2-5②「地」、④⑤田畑、⑥其一2-5③「地」、⑦ひたすら、⑧特定の所、の意味。
・1つ目の「然」は①②そうして、③④火がつく、⑤「然而」で“従って”、⑥そして、⑦火がつく、⑧(比喩として)花や果物などの色が目にも艶やかである、の意味。
・「而」は①②あなた、③④~のように、⑤「然而」で“従って”、⑥~のように、⑦逆接の関係を表す接続詞、⑧あなた、の意味。
・1つ目の「后」は①②諸侯、③④⑤⑥⑦あと、⑧君主、の意味。
・「存」は①保ち続ける、②労わる、③④生き永らえる、⑤心から思う、⑥安否を尋ねる、⑦観察する、⑧心に覚えておく、の意味。
・「陥」は①②突入する、③人を罪や窮地に追い込む、④落とし穴、⑤沈む、⑥据え置く、⑦突き刺す、⑧埋まる、の意味。
・2つ目の「之」は①彼ら、②③代名詞、④彼ら、⑤⑥⑦代名詞、⑧変わる、の意味。
・「死」は①草木は枯れる、②命を投げ出す覚悟のあるさま、③硬直したさま、④消える、⑤硬直したさま、⑥⑦動きが無いさま、⑧消える、の意味。
・2つ目の「地」は①其一2-5①「地」、②其一2-5②「地」、③其一2-5③「地」、④田畑、⑤特定の所、⑥ひたすら、⑦特定の所、⑧状態、の意味。
・2つ目の「然」は①「然后」で“その後で”、②「然后」で“そうしてやっと”、③「然后」で“その後で”、④そして、⑤「然后」で“そこで初めて”、⑥⑦「然后」で“その後で”、⑧火がつく、の意味。
・2つ目の「后」は①「然后」で“その後で”、②「然后」で“そうしてやっと”、③「然后」で“その後で”、④のち、⑤「然后」で“そこで初めて”、⑥⑦「然后」で“その後で”、⑧君主、の意味。
・「生」は①誕生する、②生存する、③生け捕り、④⑤出現する、⑥⑦生け捕り、⑧生け捕りにした者、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「投之亡地、然而後存、陥之死地、然後生。」と「芋」を「投」、「后」を「後」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「亡される地」は、「地」を「場所」と解釈すれば“無視される場所”となる。これは自軍が開墾する場所であるため、其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである」の「山の麓」に該当する場所と考察すれば、敵人民が使っていない場所と解釈できる。結果、「敵人民が使っていない場所」と解読。

・「芋に之いる」の直訳は“芋に使う”となる。これは「敵人民が使っていない場所」を開墾して芋を植えることと考察できる。結果、「開墾して芋を植える」と解読。

・「存」の“保ち続ける”は、将軍と諸侯が軍隊を保つことと考察。結果、「軍隊を保ち続ける」と補って解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、開墾した場所に突入してくる存在であるため敵軍と考察。結果、「敵軍」と解読。

・2つ目の「地」は、其一2-5①「地」の「場所」であり、敵軍が突入した場所であるため「敵人民が使っていない場所」の開墾した場所を指すと考察。結果、「開墾した場所」と解読。

・「然后」は、「后」に“あと・のち”の意味があるため、「然後」の“その後で”と同意と推察した。結果、「その後で」と解読。③⑥⑦も同様に解読。

・「生」の“誕生する”は、話の流れより枯れた草木が誕生することと考察。結果、「草木が誕生する」と補って解読。

<②について>
・「亡」の“記憶からなくなる”は、其十一3-11⑤「涙を流す兵士達が礼法の儀式で心持ちを発散させれば、次第に敵と命を取り合う覚悟が表に現れる」で記述された礼法の儀式を行った結果と考察。この兵士達は戦地「死地」に対する恐怖等によって涙を流していることを踏まえれば、使役形で「戦地「死地」のことを忘れさせる」と補って解読できる。

・1つ目の「地」は、①2つ目の「地」で記述された「開墾した場所」を指すと考察。結果、「開墾した場所」と解読。④も同様に解読。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、①「軍隊」の兵士達を指すと考察。結果、「兵士達」と解読。

・「存」の“労わる”は、兵士達を労わることと考察。結果、「兵士達を労わる」と補って解読。

・2つ目の「之」は、1つ目の「之」の「兵士達」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「この兵士達」と解読。

・2つ目の「地」は、其一2-5②「」であり、其十一1-1①9つ目の「地」で記述された「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」の意味を積み上げていると考察。但し、話の流れに合わせて「戦地「死地」」と簡略化して解読。

・「然后」は、「后」に“あと・のち”の意味があるため、「然後」の“そうしてやっと”と同意と推察した。結果、「そうしてやっと」と解読。④も同様に解読。

<③について>
・1つ目の「之」は、②2つ目の「之」の「この兵士達」を指示する代名詞と解釈。この兵士達は命を投げ出す覚悟を持たせたことを踏まえて「命を投げ出す覚悟を持たせた兵士達」と解読。

・1つ目の「然」の“火がつく”は、其七4-2①「侵して掠めること火の如く」の「火」を指す記述と考察し、「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく様子はまるで広がっていく火災が逃げ場を奪って火のない所へ人を導く様子に等しい」に基づき、「然える而くする」で「火災のように正攻法部隊でどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解読。④も同様に解読。

・2つ目の「之」は、①2つ目の「之」の「敵軍」を指示する代名詞と解釈。但し、ここでは追い込んだ敵を攻め取る文意であるため、敵本軍から離れた敵部隊を指すと考察。結果、「敵部隊」と解読。

・2つ目の「地」は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」であり、この間者は奇策部隊を率いる者であることを踏まえて、話の流れに合わせて「奇策部隊が隠れる場所」と解読。

<④について>
・1つ目の「之」は、③2つ目の「之」の「敵部隊」を指示する代名詞と解読。⑤も同様に解読。

・2つ目の「地」の“田畑”は、1つ目の「地」で記述された「芋畑」の意味を積み上げていると考察。結果、「その芋畑」と解読。

・「陥」の“落とし穴”は、芋畑につくる落とし穴であり、ここに獲物となった敵部隊を落とすのだと考察。結果、「陥あらしむ」で「落とし穴を掘る」と解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、③「奇策部隊」を指すと考察。結果、「奇策部隊」と解読。

<⑤について>
・2つ目の「地」の“特定の所”は、④「陥」の「落とし穴」を指すと考察。結果、この落とし穴が芋畑にあることを踏まえて「芋畑の落とし穴」と解読。⑥⑦も同様に解読。

・2つ目の「之」は、④2つ目の「之」の「奇策部隊」を指示する代名詞と解読。

・「然后」は、「后」に“あと・のち”の意味があるため、「然後」の“そこで初めて”と同意と推察した。結果、「そこで初めて」と解読。

<⑥について>
・1つ目の「地」は、③2つ目の「地」同様に「奇策部隊が隠れる場所」と解読。

・1つ目の「之」は、⑤2つ目の「之」の「奇策部隊」を指示する代名詞と解読。

・「芋の而くある」の直訳は“芋のように出現する”となる。これは“芋”を兵士の喩えとして、隠れていた奇策部隊が出現する様子を記述したと解釈すれば、いわゆる芋づる式に奇策部隊が次々と出現するのだと考察できる。結果、「芋づる式に次々と出現する」と解読。

・2つ目の「之」は、⑤1つ目の「之」の「敵部隊」を指示する代名詞と解釈。この敵部隊は、芋畑の落とし穴に沈んで硬直していることを踏まえて、「落とし穴で硬直している敵部隊」と補って解読。

<⑦について>
・「芋」の“芋類の総称”は、⑥「芋」で記述された「奇策部隊は、芋づる式に次々と出現する」の喩えに基づけば、奇策部隊の兵士達を指すと考察できる。結果、「奇策部隊の兵士達」と解読。

・1つ目の「之」は、⑥2つ目の「之」の「落とし穴で硬直している敵部隊」を指示する代名詞と解読。

・1つ目の「然」の“火がつく”は、漢字「火」に“怒り”の意味があることを踏まえれば、落とし穴に沈んだ敵部隊が怒り出した様子の喩えと考察できる。結果、「火がついたように怒り出す」と補って解読。

・2つ目の「之」は、1つ目の「之」の「落とし穴で硬直している敵部隊」を指示する代名詞と解釈。但し、この敵部隊の一部が逃走を試みると仮定して、「逃走しようとする敵兵達」と解読。

<⑧について>
・「然える地」の直訳は“火のついた状態”となる。これは⑦1つ目の「然」の「火がついたように怒り出す」の解釈から類推して、「火がついたように怒っている状態」と解読。

・「后を之かしむ」の直訳は“君主を変えさせる”は、生け捕りにした敵兵達の怒りが覚めた時、その敵兵達が服従する君主を敵国から自国に変えさせることと考察。結果、「自国の君主に寝返らせる」と解読。

・「芋」の“芋類の総称”は、種芋と解釈すれば、その種芋から多くの芋が収穫できると言える。また、其九5-6⑥「開拓した陣地を自国の領地にして定住するに至れば、きっと自国の人民は妻を得るだろう」に基づけば、自軍の兵士達は戦地となった場所に戦後に定住することがわかり、さらに解読文⑥⑦で「芋」を兵士に喩えたことに基づけば、戦死者を種芋として戦地に埋葬して土地が肥沃になれば、新たな生命(植物、子供)が数多く生まれると解釈できる。結果、「陥りて芋にする」で「埋葬して種芋となる」と解読。

・1つ目の「地」の“特定の所”は、②1つ目の「地」の「開墾した場所」であり、②1つ目の「地」の「戦地「死地」」であり、尚且つ戦死者を埋葬した場所であり、そして戦後に兵士達が定住する場所である。結果、話の流れに合わせて「戦地「死地」となった開墾地」と解読。

・1つ目の「然」の“(比喩として)花や果物などの色が目にも艶やかである”は、戦後、花や果物の彩りが豊かになった開墾地に、自国、敵国、他国の様々な人間が定住している様子の喩えも兼ねていると解釈できる。結果、其五4-1①「自国及び他国のあらゆる人間」の表現に合わせて「花や果物の彩りが豊かになって、自国及び他国のあらゆる人間が子孫を増やして定住する」と補って解読。

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