故を善くする者は道を脩めて法を保ち、故より為して能く勝ちと敗を正めす。

其四4-1

故善者脩道而保法、故能為勝敗正。

gù shàn zhě xiū daò ér baǒ fǎ、gù néng wéi shèng baì zhèng。

解読文

①戦略、戦術に熟練している将軍は、道理を学んでお手本を守り、過去の戦争事例から推定して勝利と敗北を予期することができる。

②過去の戦争事例にある良い方法とは、敵国の里等を経由して陣地を開拓して治め整え、そして自軍の生活の拠り所とするお手本であり、きちんと整えれば自軍の権勢が敵軍を越えて敗北させる戦略を学習することができる。

③自軍の権勢が敵軍を越えて敗北させる戦略は、財産や衣食に欠乏している敵里等を陣地にして扶養すれば敵人民が友好的になる道理をお手本とするが、人民を可愛がる隊長等が出現すれば正しくさせる。

④人民を可愛がる隊長等を正しくさせる将軍は、将軍に修養することを説く理解者をお手本とするのであり、理解者は、将軍が自分の知識だけに集中する災いが生じたと見なせば制止して将軍の失敗を抑制する。

⑤将軍が自分の知識だけに集中する災いが生じても立派に整える理解者は、授業料を保証すれば将軍に指導する制度であり、必ず失敗を抑制できる道理を将軍に学習させる。

⑥これら道理を大切にする将軍は、真心のある法規や決まりを保証して長期間に渡って敵国の里等を統治するが、打ち解けて馴染みになった人民がある役職の長を担ぎ上げれば、災いが生じると見なす。

⑦馴染みの人民に起因する災いが発生しないように対策する将軍は、自国を生活の拠り所にしようと人民に考えさせて治め整えるのであり、災いに及ぶ行為があれば全て真心のある法規に従って処罰し、自国を裏切ろうとする行為を制止する。

⑧思いやりのある優れた将軍は道理を学び、敵国の里等を経由して陣地を開拓して自国を生活の拠り所にさせ、真心のある法規や決まりを人民に守らせるのであり、優れた行動をした有能な人民が出現すれば租税等を免除する決まりである。
書き下し文
①故を善(よ)くする者は道を脩(おさ)めて法を保ち、故より為して能(よ)く勝ちと敗を正(あらかじ)めす。

②故の善は、道(よ)りて脩(おさ)めて保(たの)む法なり、正せば勝(まさ)りて敗せしむ故を能(よ)く為(まな)ぶ。

③勝(まさ)りて敗せしむ為(しわざ)は、脩(ひ)る者に道(よ)りて保てば善(よ)くするに法(のっと)るも、能(よ)くして故たらんものあれば正す。

④故を善(ぬぐ)う者は、而(なんじ)に脩(おさ)めることを道(い)う保(ほ)に法(のっと)るなり、能に故ありと為せば正(とど)めて敗に勝つ。

⑤故あるも善(よ)くする者は脩(しゅう)を保(ほ)せば而(なんじ)を道(みちび)く法なり、故(もと)より能(よ)く敗に勝つ正を為(まな)ばしむ。

⑥故を善(お)しむ者は、法を保(ほう)して脩(なが)く道(おさ)めるも、能(よ)くする故の正を勝(た)えれば敗ありと為す。

⑦故を善(ぬぐ)う者は、而(なんじ)を保(たの)まんと道(おも)わしめて脩(おさ)めるなり、故に能(よ)くする為(しわざ)あれば勝(あ)げて法し、敗(やぶ)ること正(とど)む。

⑧善なる者は故を脩(おさ)め、道(よ)りて而(なんじ)を保(たの)めしめ、法せしむなり、勝(しょう)なる為(しわざ)ある能あれば正を敗(やぶ)る故なり。
<語句の注>
・1つ目の「故」は①たくらみ、②事変、③道理、④⑤災い、⑥道理、⑦災い、⑧道理、の意味。
・「善」は①熟練している、②良い方法、③友好的に、④拭い清める、⑤立派に整える、⑥大切にする、⑦拭い清める、⑧思いやりのあるさま、優れているさま、の意味。
・「者」は①助詞「もの」、②~とは、③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「脩」は①学ぶ、②治め整える、③枯れたさま、④修養する、⑤授業料、⑥時間的に久しいさま、⑦治め整える、⑧学ぶ、の意味。
・「道」は①道理、②③経由する、④説く、⑤指導する、⑥統治する、⑦考える、⑧経由する、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②並列の関係を表す接続詞、③順接の関係を表す接続詞、④⑤あなた、⑥順接の関係を表す接続詞、⑦⑧あなた、の意味。
・「保」は①守る、②生活の拠り所とする、③扶養する、④もり役、⑤⑥保証する、⑦⑧生活の拠り所とする、の意味。
・「法」は①②其一2-7③「法」、③④手本とする、⑤制度、⑥其一2-7①「法」、⑦法律に従って処刑する、⑧法を守る、の意味。
・2つ目の「故」は①事変、②たくらみ、③④災い、⑤必ず、⑥馴染み、⑦災い、⑧しきたり、の意味。
・「能」は①②~することができる、③打ち解ける、④有能な人、⑤~することができる、⑥打ち解ける、⑦(ある数量に)及ぶ、⑧有能な人、の意味。
・「為」は①推定する、②学習する、③行い、④見なす、⑤学習する、⑥見なす、⑦⑧行い、の意味。
・「勝」は①勝利、②③越える、④⑤抑制する、⑥担ぎ上げる、⑦全部、⑧優れたさま、の意味。
・「敗」は①②③敗北、④⑤失敗、⑥災い、⑦背く、⑧破棄する、の意味。
・「正」は①予期する、②きちんと整える、③正しくさせる、④制止する、⑤道理、⑥ある役職の長、⑦制止する、⑧租税、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「善者、修道而保法。故能爲勝敗之政。」と「故」が無いが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・2つ目の「故」の“事変”は、文意より其九5-1④「将軍は大いに戦況が一致する過去の戦争事例から未来を予測するうえに、さらに過去の勝ち戦を大いに鑑定し、その勝ち戦を恭しく細部まで再現することを決行する」で記述されている“過去の戦争事例”を指すと考察し、「過去の戦争事例」と解読。②1つ目の「故」も同様に解読。

<②について>
・「道」の“経由する”は、其三5-7③「道」と同意であり、「「道、天、地、将、法」五つの教えを理解している将軍は、何度も敵国の里等を経由して陣地を開拓する戦略を理解しているのであり、侵略戦争に赴けば、自軍の権勢は敵軍を越えるのである」の「敵国の里等を経由して陣地を開拓する」と解読。⑧も同様に解読。

・「勝」の“越える”は、其七4-3①「開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである」の”全軍の権勢”を実現した結果と考察し、「自軍の権勢が敵軍を越える」と解読。②も同様に解読。

<③について>
・「為」の“行い”は、②2つ目の「故」の「戦略」と同意と考察し、解読。

・「脩」の“枯れたさま”は、其二3-5③「財産や衣食に欠乏している敵国の町、村、里、集落が豊かに変わる時は産物をつくる技能に優れた者が存在するが、敵人民が技能に優れた者を避ければ長期間に渡って産物をつくる技能を捧げる」の「財産や衣食に欠乏している」と考察。結果、「脩る者」で「財産や衣食に欠乏している敵里等」と解読。

・「道」の“経由する”は、②同様に「敵国の里等を経由して陣地を開拓する」と考察するが、話の流れに合わせて簡潔に「陣地にする」と解読。

・「能くして故たらんものあれば正す」の直訳は“打ち解けて災いになる者が出現すれば正しくさせる”となる。これは其十4-1②「人民を可愛がる病気の隊長が、戦地の型「険」に該当する高く険しい山があることをはっきり伝えた上で山中の川を目指せば、兵士達は必ず反対するが同意して切実な様子で遠く離れた山中の川に出かけるのである」及び其十4-1③「親しく付き従う兵士達に対して、急に若い女性を犯すように乱暴に扱って高く険しい山で兵士が死亡すれば、その死亡を皆に急ぎ知らせて死体を埋葬し、隊長は生存した仲間達と“死亡事故が起きた事実とその理由”に向き合う」を指すと考察。結果、「人民を可愛がる隊長等が出現すれば正しくさせる」と解読。

<④について>
・1つ目の「故」の“災い”は、③2つ目の「故」の「人民を可愛がる隊長等」の意味を積み上げていると考察し、「人民を可愛がる隊長等」と解読。

・「善」の“拭い清める”意味は、汚れのない状態にすることと言える。“汚れ”は「人民を可愛がる隊長等」を指すとすれば、“拭い清める”は③「正しくさせる」ことと解釈できる。結果、「正しくさせる」と言い換えた。

・「保」の“もり役”は、其三6-2③「将軍が、戦略、戦術の知識をひたすら後ろ盾として、自軍が優勢になる戦地だけに集中した時は、将軍の知恵の無さを明らかにする理解者が存在しなかったのである」の「将軍の知恵の無さを明らかにする理解者」と同意と考察。結果、簡潔に「理解者」と解読。

・「能に故あり」の直訳は“有能な人に災いが生じる”となる。これは其三6-2⑤「大いに将軍の知恵の無さを明らかにしてくれる理解者は、将軍が自分の知識だけに集中することを理解して、過失を抑制することだけに集中する」の「将軍が自分の知識だけに集中すること」を指すと考察。結果、「将軍が自分の知識だけに集中する災いが生じる」と解読。

<⑤について>
・「故あるも善くする者」の直訳は“災いが生じても立派に整える者”となる。これは④「理解者は、将軍が自分の知識だけに集中する災いが生じたと見なせば制止して将軍の失敗を抑制する」と同意と考察。結果、「将軍が自分の知識だけに集中する災いが生じても立派に整える理解者」と解読。

・「失敗を抑制できる道理」の“道理”は、①「道理」を詳しく解説したと考察する。

<⑥について>
・1つ目の「故」の“道理“は、③「財産や衣食に欠乏している敵里等を陣地にして扶養すれば敵人民が友好的になる道理」と⑤「失敗を抑制できる道理」の二つをまとめて指すと考察。結果、「これら道理」と解読。

・「道」の“統治する”対象は、②「敵国の里等を経由して陣地を開拓」の意味を積み上げていると考察して、「敵国の里等」と補った。

・「法」は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意であり、ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。

<⑦について>
・1つ目の「故」の“災い”は、⑥2つ目の「故」と同意と考察。「打ち解けて馴染みになった人民がある役職の長を担ぎ上げれば、災いが生じる」より、「馴染みの人民に起因する災い」と解読。

・「善」の“拭い清める”意味は、汚れのない状態にすることと言える。“汚れ”は「馴染みの人民に起因する災い」を指すとすれば、“拭い清める”とは災いが発生しないように対策することと解釈できる。結果、「発生しないように対策する」と言い換えた。

・「法」の“法律に従って処刑する”の“法律”は、其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等の「真心のある法規や決まり」を指すと考察し、置き換えた。

・「敗」の“背く”は、例えば「馴染みの人民に起因する災い」の馴染みの人民が敵国からの間者であると仮定すれば、「敗ること」で「自国を裏切ろうとする行為」と解読できる。

<⑧について>
・「善」は、其三1-2①2つ目の「善」と同様に“思いやりのあるさま”と“優れているさま”の掛け言葉として解読した。

・「法」の“法を守る”の“法”は、其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等の「真心のある法規や決まり」を指すと考察し、置き換えた。

・2つ目の「故」の“しきたり”は、「真心のある法規や決まり」の「決まり」を指すと考察し、置き換えた。

・「正を敗る」の直訳は“租税を破棄する”となる。これは、其十三4-6③「生け捕りにしても融通性がない敵兵が存在すれば、大いに年貢等を免除して考え方を改めさせるのである」等にある「年貢等を免除する」とほぼ同意と考察。但し、それぞれ施行する目的が異なることを踏まえて、念のため「租税等を免除する」と解読。

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