昔の善く守る者は、九地を之いて下らしむこと臧しとし、九天を之いて故を上えて動き、能く自ら葆ちて全うして勝つ。

其四2-3

昔善守者、臧九地之下、動九天之上、故能自葆全勝。

xī shàn shoǔ zhě、zāng jiŭ dì zhī xià、dòng jiŭ tiān zhī shàng、gù néng zì bǎo quán shèng。

解読文

①昔の優れた防御をする将軍は、たくさんの場所を利用して敵軍を劣勢にすることを良しとし、たくさんの自然の摂理を利用して戦略、戦術を施して行動し、自分で自分を守って完全な状態に保って敵軍を抑えることができたのである。

②防備のための兵士達を大切にする昔の将軍が、劣勢になった敵軍を自軍に有利な場所に集めて、自軍を侮って気が緩んだ状態に変わる戦略、戦術を施し、正攻法部隊が行動し始めて敵軍に危険を感じさせた時、敵軍は、士気が旺盛で切れ味の鋭い武器となって隠れている奇策部隊によって打ち破られたのである。

③士気が殺がれた正攻法部隊の兵士達を立派に整える将軍は、たくさんの貯蔵している食糧等をひたすら士気の殺がれた兵士達に施して感動させるのであり、敵を侮って気が緩んだ状態の兵士達が出現した時は、その兵士達を集めて仲間から死者が出現する災いに向き合わせれば残らず改心させ、自分で自分を守ろうとして任務に堪えるのである。

④たくさんの下僕が入り混じった正攻法部隊の兵士達を立派に整える将軍は、ひたすら下僕にへりくだって感動させるのであり、その下僕が、君主を尊重する姿勢に変われば安全な土地に集めて、必ず人民の生活を支える役人によって全ての下僕を保護するのである。
書き下し文
①昔の善(よ)く守る者は、九地を之(もち)いて下らしむこと臧(よ)しとし、九天を之(もち)いて故を上(くわ)えて動き、能(よ)く自ら葆(たも)ちて全(まっと)うして勝つ。

②守りを善(お)しむ昔の者の、下る之を臧(よ)き地に九(あつ)めて、天に之(ゆ)く故を上(くわ)えて、九の動くに、葆(かく)す全き能に自(よ)り勝たれるなり。

③昔の守りを善(よ)くする者は、九なる臧(ぞう)を地(た)だ之に下して動かすなり、天なる之あるに九(あつ)めて故を上(くわ)えれば勝(あ)げて全し、自ら葆(たも)たんとして能(よ)くするなり。

④九なる臧(ぞう)を昔(さく)する守りを善(よ)くする者は、地(た)だ之に下りて動かすなり、天を上(たっと)ぶに之(ゆ)けば勝(しょう)に九(あつ)めて、故(もと)より能に自(よ)り全く葆(たも)つなり。
<語句の注>
・「昔」は①②いにしえ、②夜、④入り混じる、の意味。
・「善」は①優れているさま、②大切にする、③④立派に整える、の意味。
・「守」は①防御する、②③④防備のための兵士、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「臧」は①②良い、③貯蔵し保存しているもの、④しもべ、の意味。
・1つ目の「九」は①たくさん、②一所に集める、③④たくさん、の意味。
・「地」は①②其一2-5①「地」、③④ひたすら、の意味。
・1つ目の「之」は①使う、②彼ら、③④代名詞、の意味。
・「下」は①②劣る、③施す、④へりくださる、の意味。
・「動」は①行動する、②其五5-3④「動」、③④感動させる、の意味。
・2つ目の「九」は①たくさん、②陽の喩え、③④一所に集める、の意味。
・「天」は①其一2-4①「天」、②③昼間、④仰ぎ頼る対象、の意味。
・2つ目の「之」は①使う、②変わる、③彼ら、④変わる、の意味。
・「上」は①②③施す、④尊重する、の意味。
・「故」は①②たくらみ、③災い、④必ず、の意味。
・「能」は①~することができる、②③④有能な人、の意味。
・「自」は①自分で自分を、②~によって、③自分で自分を、④~によって、の意味。
・「葆」は①守る、②覆う、③守る、④保護する、の意味。
・「全」は①完全な状態に保つ、②欠けるところがないさま、③病気が治る、④欠けるところがないさま、の意味。
・「勝」は①抑える、②敵を打ち破る、③残らず、④景色の優れた土地、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「昔善守者、藏九地之下、動九天之上。故能自保而全勝也。」と「臧」を「藏」とし、「葆」を「保」とし、「而」と「也」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

・この句について詳しく解説したページがあります。
孫子の名言「善く守る者は九地の下に藏れ、善く攻むる者は九天の上に動く」の間違い

<①について>
・「下」の“劣る”は、たくさんの場所を戦略的に利用することで其四1-2②「敵軍を観察して優れた長所があれば、将軍は自軍が優勢になる戦地に布陣することを大いに利点とする」を実現した結果、敵軍が劣ることを指すと考察。結果、「敵軍を劣勢にする」と解読。

<②について>
・1つ目の「之」の“彼ら”は、①「(劣勢にした)敵軍」と解釈し、「下る之」で「劣勢になった敵軍」と解読。

・「臧き地」の直訳は“良い場所”となる。これは、自軍にとって都合が良い場所と考察し、「自軍に有利な場所」と解読。

・「天」の“昼間”は、其七6-2②「昼間の緩んだ士気は敵を侮る」意味を指すと考察し、「自軍を侮って気が緩んだ状態」と解読。

・2つ目の「九」の“陽の喩え”は、其五2-3③「」と同意と考察。「日」は「正攻法部隊」の喩えであり、「月」は「奇策部隊」の喩えである。結果、「九」は「正攻法部隊」と解読。

・「動」は、其五5-3④「動」の「軍隊が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせる」意味を積み上げていると考察し、「行動し始めて敵軍に危険を感じさせる」と解読。

・「能」の“有能な人”は、敵を打ち破る文意から「奇策部隊」と解読。なお、“人”の意味合いは、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」が「奇策部隊」に所属していることにあると考察する。

・「全」の“欠けるところがないさま”は、全て満たされて“充実”している状態と解釈できる。この“充実”の意味より、其七6-2②「早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器」を指すと考察できる。結果、「全」は「士気が旺盛で切れ味の鋭い武器となった」と解読。

<③について>
・「昔」の“夜”は、其七6-2②「夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態」を指すと考察。また、「守」の“防備のための兵士”は守備を主体とする②「正攻法部隊」を指すと考察。結果、「昔の守り」で「士気が殺がれた正攻法部隊の兵士達」と解読。

・「臧」の“貯蔵し保存しているもの”は、「士気が殺がれた正攻法部隊の兵士達」に施すものであるため「貯蔵している食糧等」と解読。

・1つ目の「之」は、「守」の「士気が殺がれた正攻法部隊の兵士達」を指示する代名詞と考察し、簡潔に「士気の殺がれた兵士達」と解読。

・「天」の“昼間”は、②同様に解釈して「昼間の士気は人を侮って気が緩む」意味を指すと考察し、「天なる之」で「敵を侮って気が緩んだ状態の兵士達」と解読。

・「故を上える」の直訳は“災いを施す”となる。これは、其一2-3③「兵士が隊長の指示に抵抗する災いに対処する時は、死者の出そうな事故に兵士達を向き合わせれば、仲間から死者を出現させることに値し、兵士達に責任を持たせて改心させるのである」等の教えを実行することと考察。結果、「仲間から死者が出現する災いに向き合わせる」と解読。

・「全」の“病気が治る”は、其一2-3③「兵士達に責任を持たせて改心させるのである」と同意と考察し、「改心させる」と解読。

<④について>
・「守」の“防備のための兵士”は、③同様に「正攻法部隊の兵士達」と解読。

・1つ目と2つ目の「之」は、「臧」の「下僕」を指示する代名詞と解読。

・「天」の“仰ぎ頼る対象”は、下僕が仰いで頼りにする相手として、「君主」と解読。将軍と解釈することもできそうだが、将軍と解釈すると辻褄の合った解読文にならなかった。

・「勝」の“景色の優れた土地”は、君主を尊重する下僕を保護する土地であるため「安全な土地」とした。その理由は、当時の下僕は酷い扱いを受けていた可能性があるため、身の安全と衣食住の安全が保証された土地の意味合いを込めた。

・「能」の“有能な人”は、話の流れより、下僕を保護する者とわかる。これは、其二5-2③「リーダーとなって物事を処理する役人は、人民の生活を支える職務を主管し、災いする人民と交流して馴染みになり、危害を与えようとする自国に仕返ししたい人民を町、村、里、集落に封じるに至るのである」で記述される「役人」を指すと考察し、「人民の生活を支える役人」と解読。

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