火を発こせしむに、其の兵の静まれば而ち攻める勿かれ、極める其の火は央きるなり。従う而は之に可を従わしむなり、不いに従わしむ可ければ而ち之に止まらしむなり。

其十三2-2

火發、其兵靜而勿攻、極其火央。可從而從之、不可從而止之。

huǒ fā、qí bīng jìng ér wù gōng、jí qí huǒ yāng。kĕ cóng ér cóng zhī、bù kĕ cóng ér zhǐ zhī。

解読文

①敵里等の内部で巧みに仕掛けた火災を生じさせた時、敵部隊が落ち着き安定して兵士達が平穏であるならば奇策部隊は武力で撃ってはならない、頂点に達していた敵兵達の怒りは消えたのである。隊列の型や陣形の型をきちんと整えた敵部隊を奇策部隊に撃たせない将軍は、この敵部隊におとり部隊を追わせるのであり、大いに追わせることができれば奇策部隊に至らせるのである。

②火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導しても、落ち着き安定している敵部隊が出現すれば、終わること無く火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込むのであり、その敵部隊を疲れ果てさせた時に奇策部隊が武力で撃つのである。この敵部隊のするに任せて攻撃を受けた時におとり部隊が動き出して獲物に変えることができた時、大いにおとり部隊を追わせて疲れ果てさせることができれば、その敵部隊を捕らえるのである。

③急に出現した奇策部隊は、獲物となった敵部隊の周囲を取り囲むため、殺害すること無く武力で撃つことができるのであり、その敵兵達が怒りの感情を露わにすれば傷つけて動けなくするのである。奇策部隊が敵部隊の周囲を取り囲んだ時、正攻法部隊が奇策部隊の周囲を取り囲んで形勢逆転のきっかけを無くすことができれば生きたまま敵を取得する間者が加わるのであり、敵国からの離反を大いに受け入れさせることができれば敵軍全体の兵士数を減らすのである。

④傷ついた敵兵達を急いで落ち着き安定させても、強制的に軍に召しだせば専念して従事することは無いのである。しかし、中隊の真ん中に配置して用い尽くせば、自軍の正攻法部隊として火災のようにどんどん攻め込むのである。元敵兵の世話役を利点として攻め取った元敵兵達を率いるのであり、大いに真心のある法規や決まりを使って道義的に正しくして自国に宿らせれば、その元敵兵達を逃亡させずに引き止めて自軍は整った隊列で広がるのである。
書き下し文
①火を発(お)こせしむに、其の兵の静まれば而(すなわ)ち攻める勿(な)かれ、極(きわ)める其の火は央(つ)きるなり。従う而(なんじ)は之に可を従わしむなり、不(おお)いに従わしむ可ければ而(すなわ)ち之に止まらしむなり。

②火なすも、静まる其の兵の発(あらわ)れれば、而(すなわ)ち央(つ)きること勿(な)く火なすなり、其の極(つか)れしむに攻めるなり。之に従いて従う可くするに、不(おお)いに従わしむ可ければ而(すなわ)ち之を止(とど)めるなり。

③火なるものの、其の央(なか)ばにして、極(きょく)すること勿(な)くして而(よ)く攻めるなり、其の火を発すれば兵して静めしむなり。従う可くすれば而(すなわ)ち之は従うなり、不(おお)いに従わしむ可くすれば而(すなわ)ち之を止(や)めるなり。

④兵する其の火なりて静めしむも、発すれば而(すなわ)ち攻(おさ)めること勿(な)きなり。其れ、央(なか)ばに極めれば火なすなり。従を可として之を従(したが)えるなり、不(おお)いなる可を之(もち)いて従えば而(すなわ)ち止(とど)めるなり。
<語句の注>
・1つ目の「火」は①火災、②其七4-2①「火」、③怒り、④急なさま、の意味。
・「発」は①生じる、②出現する、③表明する、④強制的に軍に召しだす、の意味。
・1つ目の「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「兵」は①②軍隊、③④傷つける、の意味。
・「静」は①其五5-3④「静」、②落ち着き安定する、③動きを止める、④落ち着き安定する、の意味。
・1つ目の「而」は①②条件関係を表す接続詞、③~できる、④条件関係を表す接続詞、の意味。
・「勿」は①してはならない、②③④しない、の意味。
・「攻」は①②③武力で相手を撃つ、④専念して従事する、の意味。
・「極」は①頂点に達する、②疲れ果てる、③殺す、④用い尽くす、の意味。
・2つ目の「其」は①②③敵の代名詞、④しかし、の意味。
・2つ目の「火」は①怒り、②其七4-2①「火」、③急なさま、④其七4-2①「火」、の意味。
・「央」は①②終わる、③④両端からちょうど真ん中の所、の意味。
・1つ目の「可」は①長所、②③~できる、④長所、の意味。
・1つ目の「従」は①②③ある種の原則や態度をとる、④付き従う人、の意味。
・2つ目の「而」は①あなた、②順接の関係を表す接続詞、③条件関係を表す接続詞、④順接の関係を表す接続詞、の意味。
・2つ目の「従」は①追う、②するに任せる、③加わる、④率いる、の意味。
・1つ目の「之」は①②代名詞、③彼、④代名詞、の意味。
・「不」は①②③④大いに、の意味。
・2つ目の「可」は①②③~できる、④長所、の意味。
・3つ目の「従」は①追う、②ある種の原則や態度をとる、③聞き入れる、④ある種の原則や態度をとる、の意味。
・3つ目の「而」は①②③④条件関係を表す接続詞、の意味。
・「止」は①至る、②捕らえる、③減らす、④其五5-3④「止」、の意味。
・2つ目の「之」は①彼ら、②代名詞、③彼ら、④使う、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「火を発こせしむ」の直訳は“火災を生じさせる”となる。これは其十三2-1①「火を発こせしむ」で記述された「敵里等の内部で巧みに仕掛けた火災を生じさせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵里等の内部で巧みに仕掛けた火災を生じさせる」と補って解読。

・「其の兵」の直訳は“敵の軍隊”となる。この記述の場面は「敵里等の内部」と比較的狭い場所であること、又、奇策部隊が攻め取る敵であることを踏まえて敵軍の一部である「敵部隊」と解読した。②も同様に解読。

・「静」は、其五5-3④「静まれば則ち安んずる」の「戦闘が無く落ち着き安定しているならば兵士達は平穏である」の意味を積み上げていると考察。結果、話の流れに合わせて「落ち着き安定して兵士達が平穏である」と解読。

・「攻」の“武力で相手を撃つ”は、「敵部隊」を武力で撃つ文意になるため主語は奇策部隊とわかる。結果、「奇策部隊は武力で撃つ」と補って解読。②も同様に解読。

・「央」の“終わる”は、敵兵達の怒りが消えた状態と考察。結果、「消える」と言い換えた。

・1つ目の「従」の“ある種の原則や態度をとる”は、其七6-6①「旗を使って隊列の型や陣形の型をきちんと整える敵の正攻法部隊は迎え撃ってはならない」及び文意から類推すれば、隊列の型や陣形の型をきちんと整える敵部隊を奇策部隊に撃たせないと考察できる。結果、「隊列の型や陣形の型をきちんと整えた敵部隊を奇策部隊に撃たせない」と解読。

・1つ目の「之」は、「兵」の「敵部隊」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れを踏まえて「この敵部隊」と解読。

・1つ目の「可」の“長所”は、其五4-6②「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型を使って敵軍から攻撃を受けた時におとり部隊が動き出せば獲物となる敵部隊が出現する」から類推すれば、きちんと整っている敵部隊に追わせる「おとり部隊」と考察できる。結果、「おとり部隊」と解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、「おとり部隊」に誘導された敵部隊が至る相手であるため奇策部隊を指すと考察。結果、「奇策部隊」と解読。

<②について>
・1つ目の「火」は、其七4-2①「火」で記述された「侵して掠めること火の如く」の「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく様子はまるで広がっていく火災が逃げ場を奪って火のない所へ人を導く様子に等しい」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解読。

・2つ目の「火」は、1つ目の「火」同様に「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解釈した上で「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込む」と簡略化して解読。

・1つ目の「之」は、「兵」の「敵部隊」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れを踏まえて「この敵部隊」と解読。

・1つ目の「従」の“ある種の原則や態度をとる”は、其五4-6②「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型を使って敵軍から攻撃を受けた時におとり部隊が動き出せば獲物となる敵部隊が出現するのであり、そのおとり部隊が尽き果てていると見なして後から追ってくるのである」に基づけば、するに任せた敵部隊から攻撃を受けた後、おとり部隊が動き出すことで、その敵部隊が獲物に変わることと考察。結果、「攻撃を受けた時におとり部隊が動き出して獲物に変える」と解読。

・3つ目の「従」の“ある種の原則や態度をとる”は、「落ち着き安定している敵部隊」を自然な流れで「おとり部隊」を追わせる獲物に変えた結果、その敵部隊が疲れ果てさせるのだと考察できる。結果、使役形で「おとり部隊を追わせて疲れ果てさせる」と解読。

・2つ目の「之」は、2つ目の「其」の「その敵部隊」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・2つ目の「火」の“急なさま”は、其十三1-4④1つ目の「火なるもの」の「急に出現した奇策部隊」と同意と考察。結果、「火なるもの」で「急に出現した奇策部隊」と解読。

・2つ目の「其」の“敵の代名詞”は、解読文②で登場する疲れ果てさせた敵部隊と解釈できるが、「獲物となった敵部隊」と一般化して解読。

・「央」の“両端からちょうど真ん中の所”は、其五2-9②「奇策部隊は、周囲をじっくり見ていない敵部隊を取り囲んだ状態をつくり、容易く攻め取れる状態に至らせて行き詰まらせることができた時、一斉に出撃する」の状況をつくったと考察。結果、「央ばにする」で「周囲を取り囲む」と解読。

・1つ目の「従」の“ある種の原則や態度をとる”は、其五2-9③「奇策部隊が敵部隊の周囲を取り囲んで一斉に出撃した時、正攻法部隊が形勢逆転のきっかけを無くすようにその奇策部隊の周囲を取り囲めば、誰が力を出し尽くすまで戦うことができるだろうか」に基づけば、「奇策部隊が敵部隊の周囲を取り囲んだ時、正攻法部隊が奇策部隊の周囲を取り囲んで形勢逆転のきっかけを無くす」と解読できる。

・1つ目の「之」の“彼”は、獲物となった敵部隊が抵抗を諦めた状況で出現する者であるため、奇策部隊を率いる其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・3つ目の「従」の“聞き入れる”は、「生きたまま敵を取得する間者」が捕らえた敵兵達に敵国からの離反を受け入れさせることと考察。結果、使役形で「敵国からの離反を受け入れさせる」と補って解読。

・「之を止める」の直訳は“彼らを減らす”となる。これは話の流れより敵軍全体の兵士数を減らすことと考察。結果、「敵軍全体の兵士数を減らす」と解読。

<④について>
・「央ばに極める」の直訳は“ちょうど真ん中の所で用い尽くす”となる。これは其三1-1②「背こうとすれば中隊の真ん中に配置して前進するのである」と考察。結果、「中隊の真ん中に配置して用い尽くす」と解読。

・2つ目の「火」は、②2つ目の「火」同様に「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込む」と解釈した上で、話の流れに合わせて「自軍の正攻法部隊として火災のようにどんどん攻め込む」と簡略化して解読。

・1つ目の「従」の“付き従う人”は、其七6-4⑤「でたらめを言う元敵兵を軍隊の真ん中で管理する時は、攻め取った元敵兵の世話役が騒ぎ立てることででたらめをかき消す」に基づき、「元敵兵の世話役」と解読。

・1つ目の「之」は、1つ目の「其」の「傷ついた敵兵達」を指示する代名詞と解釈。この敵兵達は奇策部隊によって攻め取ったことを踏まえて「攻め取った元敵兵達」と解読。

・2つ目の「可」の“長所”は、「攻め取った元敵兵達」を自国に宿らせる役割であるため、其九6-1⑦「広まった真心のある法規や決まりによって敵国の人民を教え導けば、その人民は奴隷と共に降服してくるのである」で記述される「真心のある法規や決まり」を指すと考察。結果、「真心のある法規や決まり」と解読。

・3つ目の「従」の“ある種の原則や態度をとる”は、其五5-3②「道義的に正しくすれば国に宿る」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「道義的に正しくして自国に宿らせる」と解読。

・「止」は、其五5-3④「止」の「兵士達を逃亡させずに引き止めるならば自軍は整った隊列で広がっている」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「その元敵兵達を逃亡させずに引き止めて自軍は整った隊列で広がる」と解読。

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