故に是くに、不いに調りて戒めるなり、不いに求めて得るなり、不いに約して親らするなり、不いに令して行くなり。

其十一3-7

是故、不調而戒、不求而得、不約而親、不令而行。

shì gù、bù diào ér jiè、bù qiú ér deǐ、bù yaō ér qìng、bù lǐng ér xíng。

解読文

①戦争に至る時は、大いに戦略、戦術を計画して備えるのであり、大いに敵将軍の戦略、戦術を尋ね求めて敵兵達を攻め取るのであり、大いに兵士達の武具を整えさせて将軍自ら軍事を司るのであり、大いに号令して敵国に赴くのである。

②正確な判断をした敵将軍の戦略、戦術に備えて大いに徴用するのであり、敵兵達を攻め取って敵将軍の戦略、戦術について説明することを要求するのであり、将軍自ら軍事を司って戦車等を買い入れ配備するのであり、将軍はほどなく大いなる正攻法部隊を出現させるのである。

③大いに徴用する時は必ず自国の法規を正しいと認めさせるのであり、敵将軍の戦略、戦術について説明することを要求する時は攻め取った敵兵達に自国から恩恵を施すのであり、戦車等を買い入れ配備する時に将軍は古い戦車等を新しく取り替えるのであり、自国の正攻法部隊はその戦車等を大いに使用するのである。

④自国の法規を正しいと認めさせて徴用した兵士達に慣れさせれば悪事を働く兵士はいないのであり、攻め取った敵兵達に自国から恩恵を施せば自国を非難する元敵兵はいないのであり、将軍が古い戦車等を新しく取り替えれば正攻法部隊が行軍を制止することは無いのであり、正攻法部隊は大いに敵軍が存在しない場所に流れていくことができるのである。

⑤自国の法規によって悪事を働く兵士がいなければ元敵人民と自軍の兵士達を調和させるに至ったのであり、自国を非難する元敵兵がいなければ自国に適合したのであり、正攻法部隊が行軍を制止しなければ敵軍に接近するのであり、敵軍が存在しない場所に流れていけば兵士達に戦闘開始の指図をすることが無いのである。

⑥元敵人民と自軍の兵士達を調和させるに至って用心させれば自軍は衰えないのであり、元敵兵が自国に適合すれば大いに敵国を非難しようとするのであり、敵軍に接近した時に将軍は気持ちが通じ合う諸侯を分岐路にある瞿地に至らせて連合するのであり、将軍は大いに派遣した側近に指図させてその諸侯を出陣させるのである。

⑦自軍が衰えない真実は将軍が兵士達を訓練したからであり、元敵兵に敵国を非難させること無く行動を慎ませれば得意にならせることが無いのである。気持ちが通じ合う諸侯を分岐路にある瞿地に至らせて連合すれば、将軍が真心のある法規や決まりを流布することで大いに降伏してくる敵兵達を出現させるのである。

⑧災いに至る時は、戦略、戦術を計画しないで備えるのであり、敵兵達を攻め取っても敵将軍の戦略、戦術を尋ね求めないのであり、兵士達の武具を整えさせないで将軍自ら軍事を司って、大いに号令して自国に撤退するのである。
書き下し文
①故に是(ゆ)くに、不(おお)いに調(はか)りて戒めるなり、不(おお)いに求めて得るなり、不(おお)いに約(やく)して親(みずか)らするなり、不(おお)いに令して行くなり。

②是(ぜ)する故を戒めて不(おお)いに調(と)るなり、得て不(おお)いに求めるなり、親(みずか)らして不(おお)いに約(やく)するなり、而(なんじ)は行(ゆくゆく)不(おお)いなる令あらしむなり。

③不(おお)いに調(と)るに故(もと)より而(なんじ)の戒(かい)を是(ぜ)とせしむなり、不(おお)いに求めるに而(なんじ)は得(とく)するなり、不(おお)いに約(やく)するに而(なんじ)は親(あら)たにするなり、而(なんじ)の令は不(おお)いに行うなり。

④而(なんじ)の戒(かい)を是(ぜ)とせして調(かな)えば故たるものは不(な)きなり、而(なんじ)は得(とく)すれば求めるものは不(な)きなり、而(なんじ)は親(あら)たにすれば約(とど)めること不(な)きなり、令は不(おお)いに而(よ)く行くなり。

⑤而(なんじ)の戒(かい)に故たるものの不(な)ければ調(ととの)わしむに是(ゆ)くなり、求めるものの不(な)ければ而(なんじ)に得るなり、約(とど)めること不(な)ければ而(すなわ)ち親しむなり、行けば而(すなわ)ち令すること不(な)きなり。

⑥調(ととの)わしむに是(ゆ)きて戒ましめば而(なんじ)は故(ふ)らざるなり、而(なんじ)に得れば不(おお)いに求めんとするなり、親しむに而(なんじ)は不(おお)いに約(やく)するなり、而(なんじ)は不(おお)いに令せしめて行かしむなり。

⑦故(ふ)らざる是(ぜ)は而(なんじ)の調(ととの)えればなり、求めしむこと不(な)く戒ましめば而(すなわ)ち得らしむこと不(な)きなり。約(やく)すれば而(すなわ)ち而(なんじ)の令を行いて不(おお)いに親しむものあらしむなり。

⑧故の是(ゆ)くに、調(はか)らざりて戒めるなり、得るも求めざるなり、約(やく)せざりて親(みずか)らして不(おお)いに令して行くなり。
<語句の注>
・「是」は①至る、②正確な判断、③④正しいと認める、⑤⑥至る、⑦真実、⑧至る、の意味。
・「故」は①事変、②たくらみ、③必ず、④⑤悪事、⑥⑦衰える、⑧災い、の意味。
・1つ目の「不」は①②③大いに、④⑤無い、⑥⑦⑧~しない、の意味。
・「調」は①計画する、②③徴用する、④慣らす、⑤⑥調和する、⑦訓練する、⑧計画する、の意味。
・1つ目の「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④⑤⑥⑦あなた、⑧順接の関係を表す接続詞、の意味。
・「戒」は①②備える、③④⑤戒律、⑥用心する、⑦慎む、⑧備える、の意味。
・2つ目の「不」は①②③大いに、④⑤無い、⑥大いに、⑦無い、⑧~しない、の意味。
・「求」は①尋ね求める、②③要求する、④⑤⑥⑦責める、⑧尋ね求める、の意味。
・2つ目の「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④⑤⑥あなた、⑦仮定表現の助詞、⑧逆接の関係を表す接続詞、の意味。
・「得」は①②手に入れる、③④恩恵を施す、⑤⑥適合する、⑦得意になる、⑧手に入れる、の意味。
・3つ目の「不」は①②③大いに、④無い、⑤~しない、⑥大いに、⑦無い、の意味。
・「約」は①身づくろいさせる、②③買い入れ配備する、④⑤制止する、⑥⑦招き結ぶ、⑧身づくろいさせる、の意味。
・3つ目の「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④あなた、⑤仮定表現の助詞、⑥あなた、⑦仮定表現の助詞、⑧順接の関係を表す接続詞、の意味。
・「親」は①②自ら事を司る、③④新しく改める、⑤⑥⑦近づく、⑧自ら事を司る、の意味。
・4つ目の「不」は①②③④大いに、⑤無い、⑥⑦⑧大いに、の意味。
・「令」は①号令する、②③④季節、⑤⑥号令する、⑦法令、⑧号令する、の意味。
・4つ目の「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③あなた、④~できる、⑤仮定表現の助詞、⑥⑦あなた、⑧順接の関係を表す接続詞、の意味。
・「行」は①赴く、②ほどなく、③使用する、④⑤流れる、⑥出かける、⑦流布する、⑧去ってゆく、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「是故不調而戒、不求而得、不約而親、不令而信。」と「行」を「信」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文を採用した。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「調」の“計画する”は、戦略、戦術を計画することと考察。結果、「戦略、戦術を計画する」と補って解読。⑧も同様に解読。

・「求」の“尋ね求める”は、其十一2-3④「敵将軍の戦略、戦術は、奇正の戦術を実行して攻め取った敵兵達に求めて敵自身に一つひとつ挙げて説明させる」等に基づき、「敵将軍の戦略、戦術を尋ね求める」と補って解読。⑧も同様に解読。

・「得」の“手に入れる”は、其十一2-3④「敵将軍の戦略、戦術は、奇正の戦術を実行して攻め取った敵兵達に求めて敵自身に一つひとつ挙げて説明させる」等に基づき、「敵兵達を攻め取る」と補って解読。②⑧も同様に解読。

・「約」の“身づくろいさせる”は、其一3-2②「人民と下僕は練り絹を綴り合せた戦闘服に詳しくなろうとする」及び其十一3-3⑥「武器を駆使することを考慮して、町、村、里等に武器を設置することを敵人民に求める」等の記述から類推すれば、兵士達に武具を整えさせることと考察できる。結果、「兵士達の武具を整えさせる」と補って解読。⑧も同様に解読。

・「親」の“自ら事を司る”は、将軍自身が軍事を司ることと考察。結果、「将軍自ら軍事を司る」と解読。②⑧も同様に解読。

・「行」の“赴く”は、侵略戦争であることを踏まえると自国から敵国に赴くことと考察できる。結果、「敵国に赴く」と補って解読。

<②について>
・「故」の“たくらみ”は、①「敵将軍の戦略、戦術」を指すと考察。結果、「敵将軍の戦略、戦術」と解読。なお、「正確な判断をした敵将軍の戦略、戦術」とは、其十一3-1⑧「捕らえた敵間者達に語らせた敵将軍の戦略、戦術を数多く揃えて、照合して敵将軍が考えている戦略、戦術の要旨を推定する」のお手本を実行したことを指すと考察。

・「求」の“要求する”は、其十一2-3④「敵将軍の戦略、戦術は、奇正の戦術を実行して攻め取った敵兵達に求めて敵自身に一つひとつ挙げて説明させるであり、攻め取った敵兵達を思いやりによって大いに住居と富と食糧を満足させる機会を利用する」に基づけば、敵将軍の戦略、戦術について説明することを要求することと考察できる。結果、「敵将軍の戦略、戦術について説明することを要求する」と補って解読。③も同様に解読。

・「約」の“買い入れ配備する”は、其二1-1①「一般的に軍隊が敵国に赴いて兵士達に力を尽くさせるお手本は、疾走させる四頭立て戦車が千台、皮で覆った四頭立て戦車が千台、鎧を着た兵士は十万人を率いる」に基づけば、戦車等を買い入れ配備することと考察できる。結果、「戦車等を買い入れ配備する」と補って解読。③も同様に解読。

・「令」の“季節”は、其五2-4「時」の”季節“を「正攻法部隊(を構成する各部隊)」と解釈した結果に基づき、「正攻法部隊」と解読。③④も同様に解読。

<③について>
・「戒」の“戒律”は、其一2-7②「法」の「法規」と同意と解釈。結果、「法規」と解読。④⑤も同様に解読。

・「得」の“恩恵を施す”は、其十一2-3④「攻め取った敵兵達を思いやりによって大いに住居と富と食糧を満足させる機会を利用する」によって情報を得ることと考察。結果、「而は得する」で「攻め取った敵兵達に自国から恩恵を施す」と補って解読。④も同様に解読。

・「親」の“新しく改める”は、古い戦車等を新しいものに取り替えることと考察。結果、「古い戦車等を新しく取り替える」と補って解読。④も同様に解読。

・「行」の“使用する”は、将軍が準備した戦車等を正攻法部隊が使用することと考察。結果、話の流れを踏まえて「不いに行う」で「その戦車等を大いに使用する」と補って解読。

<④について>
・「調」の“ならす”は、自国に法規に徴用した兵士達を慣れさせることと考察。結果、「徴用した兵士達に慣れさせる」と補って解読。

・「求めるもの」の直訳は“責める者”となる。これは攻め取った敵兵が自国を非難しないことと考察。結果、「自国を非難する元敵兵」と解読。⑤も同様に解読。

・「約」の“制止する”は、敵国に赴いた正攻法部隊が行軍を制止することと考察。結果、「正攻法部隊が行軍を制止する」と補って解読。⑤も同様に解読。

・「行」の“流れる”は、其六2-1①2つ目の「行」で記述された「敵軍が存在しない場所に流れていく」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍が存在しない場所に流れていく」と補って解読。⑤も同様に解読。

<⑤について>
・「調」の“調和する”は、其十2-3④「均」で記述された「元敵人民を調和させた自軍の兵士達」の意味を積み上げていると考察。つまり、元敵人民と自軍の兵士達を調和させることであり、「悪事を働く兵士」には其十5-1④「歯向かう元敵兵達を大いに心変わりさせる年貢等を免除する利点によって仕返ししたい思いを断ち切らせる」の「歯向かう元敵兵達」が含まれているのだと解釈できる。結果、使役形で「元敵人民と自軍の兵士達を調和させる」と補って解読。⑥も同様に解読。

・「親」の“近づく”は、行軍を制止しない正攻法部隊が敵軍に近づくことと考察。結果、「敵軍に接近する」と補って解読。⑥も同様に解読。

・「令すること不し」の直訳は“号令することが無い”となる。これは、敵軍が存在しない場所に流れていくため、戦闘開始の指図を兵士達にすることが無いと考察できる。結果、「兵士達に戦闘開始の指図をすることが無い」と解読。

<⑥について>
・「而に得る」は、⑤「而に得る」の「自国を非難する元敵兵がいなければ自国に適合する」の意味を積み上げていると考察。結果、「元敵兵が自国に適合する」と補って解読。

・「求」の“責める”は、自国に適合した元敵兵が、敵国を非難することと考察。結果、「敵国を非難しようとする」と補って解読。

・「約」の“招き結ぶ”は、誰かを招いて結びつくことであるため、其九5-6④「気持ちが通じ合う諸侯と連合して分岐路にある瞿地に至らせて留めた時、敵軍の進路を妨害することで自軍が敵里を陣地にする戦略を援助して、その上、自軍の武力を強大にする」を実行することと考察できる。結果、「気持ちが通じ合う諸侯を分岐路にある瞿地に至らせて連合する」と補って解読。⑦も同様に解読。

・「令せしめて行かしむ」の直訳は“号令させて出かけさせる”となる。これは、其七6-5⑥「諸侯を整える深遠な思慮をもった側近は、出陣する時間が迫れば遠方の敵国で諸侯を出現させるために進言する」とほぼ同意と考察。なお、“諸侯を整える深遠な思慮をもった側近”は、其七6-5②「将軍の側近を派遣して遠方にある諸侯国と親しむ」より、将軍が諸侯に派遣していることがわかる。結果、話の流れに合わせて「派遣した側近に指図させてその諸侯を出陣させる」と解読。

<⑦について>
・「故」の“衰える”は、⑥「故」の「自軍は衰えない」の意味を積み上げていると考察。結果、「故らず」で「自軍は衰えない」と解読。

・「求」の“責める”は、⑥「求」同様に解釈し、使役形で「元敵兵に敵国を非難させる」と解読。

・「令」の“法令”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意と解釈。ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。

・「親しむもの」の直訳は“近づく者”となる。これは其九6-1⑦「広まった真心のある法規や決まりによって敵国の人民を教え導けば、その人民は奴隷と共に降服してくるのである」に基づけば、「真心のある法規や決まり」に教化されて降伏してくる敵兵達を指すと考察できる。結果、「降伏してくる敵兵達」と補って解読。

<⑧について>
・「行」の“去ってゆく”は、敵国に侵略した自軍が撤退することと考察。結果、「自国に撤退する」と補って解読。

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